『屍鬼』 – 原作: 小野不由美, 漫画: 藤崎竜
【前回までのあらすじ】われらが村迫正雄(むらさこ まさお)サンの活躍により、村人が大量死する原因が、ようやく読者にも示されたのだった──。
ホント、正雄サンはパネェっす! なにしろ、村迫智寿子(むらさこ ちずこ)の能力である「八方美人」は誰も暴けなかったのに、正雄サンは何年も前に見破っていた。さすがだぜェ、正雄サンッ!
──って、もういいか。正雄はカレーでも食っとけ。
ということで──、第 3 巻からは、尾崎敏夫(おざき としお)と結城夏野(ゆうき なつの)が真相に気がつき始めます。そこに室井静信(むろい せいしん)も加わり、対策を練る。
はたして、村にはびこる死を止められるのか──。
第 1・2 巻では、誰もが手をこまねいて、ただただ死を見つめていました。看護婦(20 世紀の話なので「看護師」ではない)たちは、自分の番が来ないことを祈り、他人に訪れる死をあきらめ顔で「あれ」と呼んでいる。
それから比べると、真相に近づいた人間の数は少ないとはいえ、自分たちから死に立ち向かうようになった第 3 巻目は、大きなターニングポイントです。
自分が考える次の大きな節目は、第 6 巻に出てきます。今回は、その直前まで──第 3 巻から第 5 巻までの感想を書きました。
清水恵がウザかわいい!
ここからは、「村人が次々と死ぬ原因」を知っている人に向けて書いていきます。
──うん、もう、タイトルやら何やらでバレバレですけどね! ようやく、「起き上がり」と書ける! 長かったー。
なにしろ、プロローグの時点で、清水恵(しみず めぐみ)が死ぬ。「え、このコが主人公じゃないの !?」とビックリしました。
最初に出てきた人物を主役と見る──。まるで、生まれたての小鳥みたいですね。ピヨピヨした頭しか持たないワレワレは、『スティール・ボール・ラン (1)』で学習したハズなんですけどね……。
ところがところがッ! 恵は死んだあとに「起き上が」る。そして、死ぬ前よりも元気に、村中を歩き回るのでした。
一方、結城夏野は「徹ちゃん」とのイチャイチャに夢中なため、恵からの手紙を破く。恵は、そのバラバラになった手紙を、泣きながら拾い集める(ワンピースのスソを気にしながら←重要)。その姿の、なんと美しいことだろうか……!
清水恵のミリョクは、自己中心的なところです。
いちおうは恵も主役級なのだから、人間的に良い部分──ようするに良心を持っているのだろう、と読者は考えます。きっと、「起き上がり」としての自分の存在に、苦悩しているのだ──と。
ところが、恵はコイガタキを平気で不幸にする。
恵は、恋する相手──夏野を(非・性的な意味で)襲うことには悩むのに、夏野に近づく同級生の家族には歯を立てるのです。この 5 巻の最後の場面は、かなり慣れた様子ですよね。ゾクッとした。
同じような「ウザ cawaii!」属性を持った人物に、尾崎の妻・尾崎恭子(おざき きょうこ)がいます。彼女が初登場した 3 巻では、「セクシィだけどヘンな頭」くらいの印象しか持ちませんでした。
恭子を見る目が変わったのは、第 6 巻ですね。変わるのが遅すぎたけれども──。
フジリューが描くホラー
藤崎竜氏といえば、生粋の「ジャンプ読み」からすれば、なんといっても『封神演義』ですね! あれは面白かったなぁ──、後半までは。後半は登場する人物が多すぎて、ダルンダルンだった気がします。
繊細なタッチの線で細かく背景を描いたかと思えば──とつぜん、デフォルメされたキャラクタが現れる。このコミカルな絵柄が、藤崎氏の持ち味だと思います。
『封神』にも、かなりキワドイ場面──妲己の「酒池肉林」なんてのがあったワケですが、誰もあのマンガを怖いとは思わないでしょう(そんなに怖いシーンでもなかったっけ?)。
そのせいか、『屍鬼』を読んでいると、のほほんとした気持ちになってくる。物語の舞台も、のどかなイナカだし。
京極夏彦氏の著書に『どすこい。』という──ふざけた短編小説集があります。この中に、小野不由美氏の原作『屍鬼』のパロディである『脂鬼』(しき)が収録されている。これがまた、屍体ばかり出てくるのに、緊張感がない話なんですね。
ほのぼのとしたフジリュー版『屍鬼』と、のんきな『脂鬼』には、似たようなフンイキを感じる。
では、『屍鬼』はホラーとしては失敗なのか?
いや、けっして、そんなことはありません。キッチリと読者を怖がらせるシーンも多いです。ただ、笑わせる場面も混ぜて出してくる。作者のサービス精神ですね。だから、「のほほんと怖い」印象になる。
第 6 巻には、自分が本当に恐ろしいと思った場面が出てきます──。
終わりに
またまた最後に、桐敷沙子(きりしき すなこ)の言葉を引用します。現時点で一番、事の真相を正確に表したセリフでしょう。
誰も好きで こんな生き物に なったんじゃ ないわ
人を襲わずに 済めば どんなに いいだろう
でもね
ものすごく おなかが 空くのよ
(……)
人殺しが どうでもいいと 思えるほどに
『屍鬼 (5)』