『バクマン。』 126 ページ 「分析と結果」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 17 号)
マンガ家と編集者に必要な能力は、面白いマンガを見分ける目です。「いま面白いと思われるマンガ」を察知して、「これから流行するマンガ」を作る出す感覚があれば理想的だけれど──、それは神の領域になる。
『バクマン。』に出てくる主要人物のほとんどは、この感覚を持っているけれど──、七峰透は どうなのか分かりません。自分の作品と本気で向き合った彼を、おそらく一度も見ていないからです。
かつての自分には、マンガを見る目があると思っていました。「ジャンプ」のマンガはすべて目を通していたけれど、とくに気に入った作品は連載が続き、飛ばし読みしていたマンガは消えていく。
やがて、新連載の 1-2 回目を読むだけで、打切りになるマンガを見分けられました。的中率は 9 割くらいだった──と記憶しています。そのうちに、「こりゃダメだ」と思った作品は読まなくなりました。どうせ、すぐに終わるし──。
ところが、その外れた 1 割の中に、長く連載を続けているマンガがあります。その代表が、『『ONE PIECE』』だという──。絶対、コミックス 2 巻くらいで終わると思っていた。
ということは──、マンガ読みとしての自分は、15 年も前から感覚が狂っていたのか……。
2011 年に入ってから「ジャンプ」の背表紙は、「『こち亀』のキャラが まゆ毛でつながっている」の図で、絶っっっ対スベってるように見えるけれど、それも自分が おかしいのかもしれない。「大阪編」はスベり倒しに思えるのも、自分が悪いのだろう。きっと、そうだ。
僕が出るよ
事情を知らない小杉編集が言う、新年のあいさつが悲しい。よく考えると、この直後に報告する内容からして、明るい口調なのは不気味ですけどね。
- 地獄の小杉:
- 「俺……感情がねえんだ……」
状況に似つかわしくない言葉の応答によって、中井のマヌケさが一段と引き立ちます。この様子だと、また逃げ出しそうな気がする。特別待遇を捨てる勇気は、なさそうだけれど……。
中井巧朗という人物とは、何だったのだろう?
新妻エイジの仕事場でサイコーの手本となり、蒼樹紅を振り向かせるため雪風に凍えた彼を見ているから、どうしても見捨てられない。高浜昇陽の仕事場を最悪の形で中井が去る時にも、蒼樹は彼に感謝をして、福田は復帰を信じた。
そして、七峰の仕事場でチーフとして中井は返り咲いたのです! 絵の腕前も、それほど衰えていなかった。何らかの きっかけさえあれば、苦手な人物の描写も克服し、マンガ家への道を進んでいく──。
──そんな中井が見てみたかった。
でも、どうやらその機会は永遠に失われたように見えます。『DEATH NOTE』で、一度は戦線離脱したある人物(男性のほ)を再登場させた作者だから、まだ分かりませんが……。
今週の 順位は?
コミカルな演出が多い『バクマン。』だけに、このページの暗いムードが目立ちます。まるで、別の作品になったみたい。来週から『漫画草紙あやつり七峰』が始まったりして。
変わり果てた七峰透の姿を見て、小杉はすべてを察したのでしょうか。妙に落ち着いている。
七峰が言うように、ここで『有意義』の順位が良ければ、まだ復活のチャンスはあったはずです。「判定人」などに頼らず、自分の力だけで どれだけやれるか試せました。
「PCP」にも ほとんど入れている
小杉の態度は冷酷に見えますが、事実をそのまま言うしかありません。七峰に同情して優しい言葉をかけても、結果は同じです。
データはウソをつかない。──その真実が、いまの七峰には、何よりも つらい現実です。
大丈夫か?
『DEATH NOTE』に登場した「新世界の神」は、最後まであがき続けました。無様な格好になって わめき散らしながらも、勝利をあきらめない。
「マンガ新世界の神」(と自分が勝手に読んでいる)・七峰は、神の器ではなかったのか……。
「125 ページ」で約束したとおり、これからは小杉と一緒に作品を作っていくはずです。ここから『有意義』が奇跡の順位急上昇──とはならないでしょう。次の連載会議では、打切りが決定するかもしれません。
それでも、自分ひとりで話を作る苦しさと楽しさを、七峰には味わうべきです。そこから(『バクマン。』の文脈に沿った)「真のマンガ家」を目指して欲しい。
──個人的には性格のねじ曲がった人物が好きなので(※作品の世界の中に限る)、「判定人法」を煮詰めた方法で、七峰のリベンジを期待しています。