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HUNTER×HUNTER #317 「返答」 死が 2 人を結ぶまで

HUNTER×HUNTER No.317 「返答」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 42 号)


(2 つの輪が──この世で交わることはないけれど)

今週号の「ジャンプ」は、『HUNTER×HUNTER』が表紙でした! 前回の表紙は何十年前? ──と思って調べると、2007 年の 45 号です。以外と早かった、かな(感覚がマヒしまくり)。

HUNTER×HUNTER ついに再開! 突入直前の異常事態 | 亜細亜ノ蛾

今回は素晴らしいサギ表紙でしたね! 作者の冨樫義博先生 自身も、温度差が激しすぎる──と巻末のページに書くくらいです。

こんなにも外見と内容が合っていないのは、『まど☆マギ』以来でした。どちらの作品も、ファンシィかつポップな絵柄で、お子ちゃまにも安心して見せられ(ry

巻頭カラーも『H×H』が飾っています。これまた登場人物の誰一人として今回の本編には登場していないという「ハンター・ハンター詐欺」でした(オレオレ詐欺的な)。

それでも、ゴン・キルア・クラピカ・リオ──レオリオ(・ヒソカ)を、久しぶりにそろって見られたのが うれしい。彼らが再会した時には、こんな表情ができるのかなぁ……。


さて、テレビアニメ: 『HUNTER×HUNTER』の色に染まった表紙とカラーは楽しいけれど、肝心の本編は、今週号の「ジャンプ」の連載で、

『H×H』が一番つまらなかったですね! ただし──

一見様にはハードルが高すぎる!

──初めて「ジャンプ」を読んだ人には(驚いた?)。

ほかのマンガは、ストーリィや設定を知らなくても、「ああ、これはバトルマンガか(戦闘中にセリフが多いし、背後から攻撃を食らってばかりだな)」とか「演劇のマンガなの?」などと、初めての読者でも楽しめる。

ところが、『HUNTER×HUNTER』だけは、「一見様・超お断わり!」仕様です。

一般的な読者様:
「なんかぁ、爬虫類(はちゅうるい)的なバケモノとぉ、ハナミズ垂らした女の子がぁ、聞いたこともないゲーム? でぇ、泣いてる? みたいな? あと、ココリコは ないわー(笑)」

アニメの情報から この作品に興味を持った人が、今週号の「ジャンプ」を読んだら──、アニメも観なくなるのでは?


一方、長年この作品を読み続けてきた読者(見様)にも、けっこう厳しいぞ──。

「軍儀」という架空の競技で、架空の技を披露し合う展開が延々と続き、退屈だった人も多いのでは?

でも、自分には最高に面白かったです!


今回の話は、「前回の続き」という意味では順当でしたが、まさか王とコムギの対局を描くとは思いませんでした。描くことで話の残酷さが増しています。

メルエムは ともかく、コムギの生死は あいまいにして、「そして数か月後──」という後日談を予想していました。たとえば──。

──まさに「秘境」といった大自然の中で、キルアはたった 1人で「あるもの」を探していた。ようやく つかんだ手がかりは、ゾルディック家に代々伝わる秘宝の──とか、

──イカルゴもまた、ウェルフィンたちのように、かつての仲間を求めて旅立つことにする。「どうしても行くの?」と聞くパームに、彼は短く別れを告げた。最後に別れのキスをしようとするパームに、イカルゴは──とか、

──ジャイロは、「ある男」と密会している。世界中に悪意を ばらまくために有効な手段を見つけたジャイロと、「その団体」の目的は、ある程度 一致していたのだ。しかし、ジャイロの出した条件に納得ができない「団長」は──とか、

そんな展開かと思いました(こうやって当てずっぽうを書いておくと、あとで当たった時に「ほれ見たことか!」が できるのです)。

小麦が萌える季節

サギ表紙などと書きましたが、本編のコムギは かわいらしかった! ついでに、ときどきメルエムまで かわいい! 2 度言わすな !! の場面は、アニメ・『さよなら絶望先生』の「普通って言うなぁ!」的に脳内再生されました。

ベッドがある個室で、2 人きりになってボード・ゲームをする姿は、まるで夫婦か恋人同士ですね!

コムギは「総帥様」を崇拝しているし好きなのでしょうが、それ以上に「軍儀が好き!」という熱意に あふれている。夢の中でも打っているくらいです。


コムギが言う「勝った時の褒美」が すさまじかった。

コムギ:
「もう一局 お願いいたす ます!」

「負けたら死ぬ」ことを前提に軍儀を打っている──という少女の口から出た言葉とは思えませんね!

死を毎日 側に在るものと して… 享受してる幻影旅団の人間と同じ精神状態で、コムギも生きているのでしょう(『HUNTER×HUNTER (13)』)。

なぜ、見捨てた

前回のラストで、パームが泣いていたのは、人間としての罪悪感からでしたね。やはり、「貧者の薔薇(ミニチュアローズ)」の毒は、伝染するのか──。解毒剤も ないようです。

HUNTER×HUNTER #316 「本名」 子どもの駄々には正面から向き合おう | 亜細亜ノ蛾

当然のように湧いてくる疑問は、「民間人を見殺しにする」という選択を、なぜ討伐隊が許したのか?


じつは、「貧者の薔薇の毒」と「コムギの安否」の両方を知っている人物は、パームとイカルゴしかいません

前回、キメラアントの王の生死についてハンター協会に報告したモラウ・そしてノヴは、毒のことは知っていても、コムギに会ったことはない。

ゴンやキルア・ナックル・メレオロンは、コムギには会っているけれど、「薔薇」については知らされていなかった(と思われる)。コムギの行方も分からない。


以上から、「王は毒に冒されて苦しんでいる」・「コムギは亡くなった」とモラウたちにパームは伝えた──と考えています。

パームが「善人」か どうかは議論の余地があるけれど、無関係な人間を巻き込んだことで、この先ずっと彼女は苦しみ続けるでしょう。

これからの彼女を支えていくのは、彼女自身の(強すぎる)精神力と──イカルゴなのかな? キルアという線も出て来たけれど……。

答え: 強化系能力者によって髪の毛を元に戻してもらったノヴ

余談: その国に生まれ落ちただけで

以前に聞いたクイズで、こんな問題があります──。

オリンピックの 100m 走で金メダルを獲るには?

「誰よりも先にゴールする!」は不正解です。たとえば、未開の地に「世界で一番 速く走る男」がいて、彼をスカウトしてきても、裸足や裸で走られたら失格してしまう。

正解は、「国際オリンピック委員会 (IOC) が定めた基準を満たした上で 100m 走に登録・参加し、決勝まで勝ち上がった上で、決勝戦で 1 位になる」です。

(厳密に言うと もっと条件は複雑──たとえば、スタートの合図から ゼロコンマ何秒後に走り始めないとフライングになる、など──だけれど、話の本筋ではないので見逃してください)

けっきょくは、一流のスポーツ・チームに参加して、過酷なトレーニングと計算された食生活を日常的に こなしてきた者だけが、世界の頂点に立てる。

何が言いたいのかというと──。


(国民は)貧しい東ゴルドー共和国に生まれた──というだけで、可能性を つぶされた者も多くいたでしょう。以前に似たようなことを、王が護衛軍の前で話していましたね。

コムギの場合は、体力や視力が必要のない「軍儀」という競技の才能があったおかげで、今日まで生きてこられました。

彼女に軍儀の素質がなかったり、軍儀の世界大会などなかったり、あるいは世界一のアスリートになれる才能があったとしても、コムギが暮らしていた環境では生き残れなかったに違いない。

おそらく、「その環境にいたおかげでコムギは軍儀が強くなった」のではないでしょう。生きていくために死にものぐるいで修行をして、軍儀の世界で王者になれた──のではなく、何かの拍子に軍儀が強いことを誰かに見抜かれたのだと思います。

その根拠は、『HUNTER×HUNTER (24)』で語られたコムギの家庭環境です。金になる可能性が雀の涙の塩分ほどしかない軍儀のプロとして教育する余裕などありません。

いつでも「今日」が大事

偶然にも軍儀の才能を授かったコムギは、たまたま今日まで生き抜いて、思いがけず蟻の王と出会い、図らずも一緒に死ぬことになった──。

それらすべてが、必然──運命だと感じています。

「今日」のために王は生を受け、コムギは生まれた。

おそらく、すべての生物にとっても同じでしょう。

おわりに: 「逆新手返し」の真意

死路──死ぬしかないと思われた現状にも、活路があった。その活路すら絶たれても、別の道がある──。

メルエムとコムギが指した軍儀の手は、彼ら自身を暗示しているように感じました。毒を受けて命が絶たれる寸前のメルエムと、その毒が伝染しつつあるコムギにも、生き残る方法が あるのでは?

このことは、以前にも検討しました。

HUNTER×HUNTER #314 「説得」 最初で最期の願い | 亜細亜ノ蛾

──しかし、メルエムもコムギも、なんとかして生きながらえる道よりも、軍儀を打ち合うことを選んでいます。それは「命を粗末にする」こととは違う──と信じたい。


メルエム:

「…そうか 余は
この瞬間のために 生まれてきたのだ…… !!」

「この瞬間」とは、軍儀のことだけではなく、真の意味で「自分が生まれてきた意味」を悟った瞬間のことでしょうね。

ともに生き・ともに幸せを分かち合い・ともに死ぬ相手と巡りあえた──。

死後の世界が あるのかどうかは知らないけれど、すくなくともメルエムは信じているようです。そこで過ぎた者達と再会する──と。

「死が 2 人を分かつまで──」という結婚式で使われる言葉があります。でも、メルエムとコムギが幸せに暮らせるのは、「式」ではなく、「死期」を迎えたあとでしょう。

天国と地獄に別れなければ良いけれど──。

asiamoth:
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