HUNTER×HUNTER No.334 「完敗」 (週刊少年ジャンプ 2012 年 10 号)
今週号の『HUNTER×HUNTER』はセンタ・カラーです! テレビでアニメも放送中の今、さぞかし楽しげなイラストが見られる──
──などという甘ったるい考えは夢だった。
巻末の作者コメントも不吉です。先週号は巻末コメント・今週号はサブタイトルについて、冨樫先生は疑問を感じ始めて
いるらしい──。ベタすぎるし考えたくないけれど、こんなセリフを想像してしまいます。
- 冨樫義博:
- 「もう これで 終わってもいい だから ありったけを」
同じことを「キメラアント編」で何度も思わされたので、あと 100 巻は続くと信じていますけどねッ!
カミサマは どこに
『H×H』は一つ一つの描写が分かりやすいけれど、謎めいた難解なセリフが多い。絵で魅了して言葉で悩ませる。困った作品ですね!(笑顔で)
たとえばパリストンが言う「カミサマ
」には、わざわざ引用符が付いて片仮名になっています。単純に神のことを指しているのか、それとも誰かの呼称なのか──。
何週間も前に載った「ハンター十ヶ条」の話をサラッと出すところから考えても、一見さん(というか立ち読みで済ませる人)に優しくないマンガですね! ぜひとも そのままの路線を突っ走って欲しいです!
十ヶ条に潜む爆弾
十ヶ条のなかでキケン性の高いルールは、第八条から第十条だと以前の感想で書きました。会長が不在の場合には、副会長が ほぼ全権を握ってしまう。まるで「会長の暗殺を企ててください」と言っているかのようです。
HUNTER×HUNTER #331 「X 日」 この世は閉じられている | 亜細亜ノ蛾
ジンが言っていたハンター十ヶ条の 解釈次第
とは、今回のパリストンが臭わせた「閣議の決定を無視して 強制同義
」だったのでしょうか。副会長の気分しだいで、いつでも選挙や協会がメチャクチャになる可能性があった。
チードルも、十ヶ条を改善すること自体には賛成しています。どちらかと言えば彼女の意見というよりも、多くのハンターが抱える不満を代弁した──という感じですけどね。
しかし今回の騒動でチードルは、副会長に関するルールをまっ先に変えようと考えたはず。すべては手遅れだけれど──。
皮肉と不安
扉絵のナニカは、ゴンを治してくれる愛すべき存在のはずなのに、まがまがしい「何か」として描いてしまう。彼女の負の面だけを切り出したような恐ろしさです。
全快したゴンの登場も、最高に喜ばしい場面のはずが──、パリストンの策略のせいで台なしになっている。ゴンが来たせいで、レオリオが会長になる道は完全に閉ざされた。
この皮肉がタマラナイ!
ざっくり軽く読んでいる人には「この子、怖いな!」とか「治って良かったね!」で済んでしまう。一方で長く深く読み込んできた者には、別の面を見せてくれるのです。
しかもゴンは、切り落とされた腕のことを覚えていません。あれだけ すさまじい状況を味わったのだから、記憶に障害が起きても不思議ではない。ナニカは身体を治しただけで、心は癒せなかったのでしょう。
この場にキルアが いないことも不安です。もちろん、今もアルカの近くにいるのでしょう。以前に書いたように、今後も ずっとキルアがアルカを守り続けるのであれば、ゴンともお別れです……。
HUNTER×HUNTER #332 「喝采」 当選よりも尊い友だち | 亜細亜ノ蛾
ネズミが描いた絵
いつもは自信たっぷりの笑みを浮かべていたパリストンが、ここでは うつむいて寂しそうな表情でチードルに語っている。ようやく仮面が はがれた副会長の素顔は、まるで頼りなさそうな好青年です。
まさかの「じつはパリストンは いい人」→「和解エンド」が目の前で ちらついたけれど、そんな生ぬるい終わり方ではなく、惨劇が待っているんだろうなぁ……(期待に満ちた目で)。
策士・パリストンは、恐ろしいほど初期の段階から選挙の結末を見ていた! ジンは さらに先を行っていた(ビーンズとの仕込み)けれど、結果だけを見れば副会長の大勝利です。
ただし、ジンがゴンを選挙に利用するなんて読みは、読者から見れば あり得ない。しかしパリストンは、ジンとゴンとの関係を深く知らないのかもしれません。または知っていても、可能性の 1 つとして冷静に考えたのでしょう。
完全に人物が主体の物語を描く──「人物主体派」冨樫義博先生ならではの場面です。話を成り立たせるために人物を動かす「物語主体派」の作家には描けない。
──いちおう書いておくと、この(自分が勝手に考え出した)分類は、作家の優劣とは無関係ですよ!
ストーリィ主体で人物をコマのように動かす作家と言えば、大場つぐみ先生を最初に挙げます。言うまでもなく大好きな作家で、生み出す作品も優れている。大場先生なら、パリストンがジンの思惑を見抜く手助けを、伏線としてハッキリと描いていたと思う。
人並み外れた 2 人
取り巻きたちからパリストンが情報を得ていなかったことは、ものすごく意外でした。完全にジンを敵として 信頼
している感情だけで、今回の巨大な絵巻を想い描いている。しかも負け戦も想定内です。
「仲間を信頼する気持ち」という点では、パリストンもジンもゴンたちも同じ──という点も皮肉ですね。
怪者(けもの)であるパリストンも怪物であるジンも、チードルたちが束になったって敵わない!
ただ こうなると、ジンが動かなかったことは大いに不満です。どうして そんなに余裕があるのだろう?
ここで仮に、パリストンが信頼したとおりだったとします。仲間が助けると信じたからこそ、ジンはゴンを放置した。──そうだとしても、何らかの意図でパリストンが手下を使って、ゴンを亡き者にすることも可能だったはず。
パリストンはゴンに手を出さない──とジンは確信していたのでしょうか。しかし実際には、「選挙にゴンを使われる可能性」をパリストンは考えていた。それをキケンだと考えれば、ゴンを消す算段もあったように思う。
──どうもジンとパリストンの思考は読み切れません。考えるだけの材料が足りないからです。ざっと考えても下記の点が不明のままになっている。
- ジンはパリストンを止める気があるのか
- パリストンが「キメラアントのマユ」を確保した理由
- マユから かえった者の戦力
- ジンとパリストン・「十二支ん」との関係
感動のエンディング?
会議場の全員が、ゴンとジンとの「感動の再会」を期待している。父と子が涙を流して抱き合う、そんな姿を思い浮かべていそうです。しかし──、
意地っ張りなゴンが、このままジンと会うだろうか?
ずっとゴンは闘病生活を送っていた。たしかに自分自身と戦っている。でもそれは、「ジンと会うための努力」では ありません。なによりゴンが自力でジンを見つけたわけでもない。
うまい具合にハg ──ハンゾーがゴンのとなりにいます。ハンター試験でハンゾーに刃を突きつけられても、ゴンの心は折れなかった。
HUNTER×HUNTER 4 巻 「最終試練開始!」 2 – 決闘も運賃も負けない | 亜細亜ノ蛾
それだけ意志の強いゴンが、「あっ ジンがいる!」→「パパー!!(号泣」なんて簡単に再会したら、ハンゾーも ずっこける。──それだけ!?
それにバックレ王であるジンのことだから、もしもゴンが近づいてきたら、すぐに全力で走り出すのでは? そして こんなオチが待っていた──。
- ジン:
- 「オレの全力は 50m を 10 秒フラットだぜ!」
- ゴン:
- 「遅っっっ!!!1」
おわりに
「ちょっと 待ったァァァ
」──と ひとりぼっちで『ねるとん紅鯨団』を演じたカンザイが笑えました。「ぐう
」の音も出てるし。
これがほかのマンガだったら、「トラとネズミ♪ なかよく けんかしな♪」となるところですが、ムリだろうなぁ。
あと、カンザイのシルエットがゴンに見えることもツボでした。ここで怒りのゴンさんが向かって行ったら、パリストンは ひとたまりもなかったでしょうね。
そんな ほのぼのとした展開などまったく考えられないような、不吉だらけの状況だけれど……。
コメント
なんだかんだで、パリストンが勝ってくれてよかった。今後の展開を考えるとそっちのほうが話は面白くできますしね。
大きな障害として立ちはだかって欲しいところ。
あとキルアがどうなったかは非常にきになりますね。イルミには話せない条件を隠していて、ゴンにもキルアのおかげと話せないってのはどんな条件だったんでしょうね・・・・。
「願い」できないときの「命令」って伏線?もあったけれど回収されるんでしょうかね。
永空さんへ:
いやいや、まだ分かりませんよー。
次回は「え……? オレが会長じゃないの……?(ゴゴゴゴゴ」と ありったけの念を込めたゴンさんが登場の巻、です!(振出しに戻る)
そう言えばアルカ・ナニカのことは、ゴンにすら明かせないはずですよね。
ゴンを治した直後、キルアは「神速」で車に乗り込んで立ち去ったのかも。そしてそのまま……。
微妙なところですが、今回は「命令」の描写は なかったと考えて良いですよね。本当の とっておきだったのでしょう。