『HUNTER×HUNTER』 No.363 「念獣」

序盤は静かに始まりました。ところが、すぐにでも戦争が始まりそうなくらいに場の空気が過熱する。そこから急速に静まっていく──。
いつもながらテンポの良さに ほれぼれします。言ってしまえば ただの「状況説明」の話なのに、ダレることなく読ませるところがスゴい。
マンガ家を含め、作家の仕事は「次の話(本)を手に取らせること」だと言えます。冨樫先生は この能力が ずば抜けている!
今回の見どころ
- 守護霊獣の特性を少し復習
- 念を使える王子が一名だけ判明
- 第1-4王子の性格が見えてくる
- 王子を狙う「敵」を始末しましたー(棒)
再び「見える」「見えない」問題
またもや〈守護霊獣〉の認識に関する描写が出てきました。
念能力者である第1王子・ベンジャミンも自身の守護霊獣は見えない。このことから、王子の部下は以下の仮説を立てました。ほかに情報がない以上、この推測を信じるしか ありません(引っかけが仕込まれていそう)。
儀式の当事者は念獣を視認出来ない
もしくは何か条件が不足している
そして、まだ解明されていない念獣の生態
が残っていそうです。
「守護霊獣は ほかの〈霊獣〉や〈宿主〉を直接は攻撃できない」と読者は知っている。しかし、その事実を作中で知っている人物はナスビー・ホイコーロ国王ただ一人だけです。
宿主の定義は、壺に血を入れた王子だけでしょうか? 直接 血を分けた母親は対象外と見るべきか。
No.360「寄生」を読み返すと、オイト王妃は〈念獣〉が見えなかった。これは、彼女が〈念〉を使えないからなのか?
(メタな読み方をすると、どう考えても「ワブル覚醒で形勢逆転」という未来しか見えない。が、このまま「本当に無力な親子」のまま終わったら神だよなー。──あ、すでに冨樫は神か)
出遅れた王子
第3王子・チョウライは念を使えません。彼の護衛たちも念獣を知る者は いない。
これは、『H×H』で おなじみの「極寒の地で 全裸で凍えながら なぜ つらいのか わかっていない ようなもの
」といった状態です。
ある意味「持たざる者」であるチョウライには がんばってほしい。「ただの人間」が どこまで念能力者や念獣に対抗できるかを見たいです。
まだ赤子である第14王子・ワブルが まっ先に襲われた。そして、味方もろとも始末した可能性がある。
──この情報にチョウライは驚いていました。この一点から、どうもチョウライは良い人というか常識的な人物だと感じます。「融通が利かない独裁者タイプ」っぽい第一印象でしたが、一気に好感が持てました。
常識人が まっ先に退場させられる状況では あるけれど──。
たんこぶ二つ
「オレ様」使いと 「一人称が名前」の女 って 根が同じだよね? そう 思わない?
『HUNTER×HUNTER』 No.348「覚悟」
──と、第4王子・ツェリードニヒがタトゥーの彫り師に向かって言いました。これは、一般的な女性への(侮蔑の意味を含む)言葉かと思っていました。しかし、どうやら第2王子・カミーラを指していたようです。
ようするに、ツェリードニヒには二人とも「目の上の たんこぶ」なんですね。
ツェリードニヒは、チョウライのことをどう思っているのだろう? 眼中に ないのか、それとも すくなくとも「利用できるゴミ」くらいには考えているのか。これまでに まるで発言がないところを見ると、「そのほか大勢」でしょうね。
王様以外は「ゴミ」だらけの国は──栄える余地など ないだろうに。
理不尽な女王様
さて、そのカミーラは、第一人称が名前どころか愛称でした。けっこうな ご年齢のはずですが……。
カミーラは、「パンが無ければ 死ねば いいのに」とでも言いそうな王子です。創作物に よく出てくる独裁者的な王女そのものですね。ナスビーが求める王の器からは遠い人格だと見ました。
生き残りを賭けた戦いでは、「思い上がった者から退場する」という展開が多い。カミーラは ぶっちぎりの一番で消えていきそうな性格に見えます。
だからこそ、終盤まで生き残っていそう?
猛獣のごとき王子
ベンジャミンが ただの脳筋だったら、ツェリードニヒもクラピカも攻略に苦労は しなかった。
ところが、第1王子は部下の忠告を冷静に受け止めるだけの度量が あります。
さらに、現時点ではオレ様使い もとい念使いだと明かされた唯一の王子でもある。
おまけに、なんと言っても私設兵の隊長・バルサミコが優秀すぎる!
直情型で最短の道を好む
ベンジャミンの性格を熟知しています。直前まで一触即発だった王子に対して、あれほど冷静に自身の意見をとおせる。おそろしいほどに肝が据わっています。
でも、第一王子の性格をつかむまでに、いったい何人の犠牲が出たのだろうか。
──バルサミコの顔の傷も、「ライオンよりも恐れるべき王子」に引っかかれたアトなのかな……。どうやって ついた傷跡か 良く分かりませんよね。ベンジャミンの能力を暴く手がかりかも。
入り込む武力
ベンジャミンの私設兵が投入されました。つまりは、第1王子に情報が筒抜けの監視役・兼・刺客です。
王室警護兵
を自由に配置できる王子はベンジャミンだけとのこと。
ベンジャミンが放った警護兵を正式に拒否できるのは、母親が同じであるツェリードニヒくらいです。あとは、カミーラのように義務も権利も ないままに追い払うか、チョウライのように情報収集のために利用するか。
第5-14王子は、私設兵を受け入れるしか なさそうです。
この状況は、ビデオ・ゲームで いうところの〈チート〉(インチキ行為)にしか思えない!
ナスビーの対応も、ベンジャミンだけは特別視している感じです。最初から第1王子が勝つように仕込まれたゲームだったのか?
見抜かれた意図
今回の騒動の発端は、クラピカが発した緊急コールです。すべては、第14王子・ワブルと第8王妃・オイトを守るためでした。他の王子を護衛している仲間たちへの警告と、情報共有といった一面も あります。
ところが、結果的には、逆に王子を危険な状況に追い込んでしまった。仲間との連絡も取りにくくなっています。これはクラピカにとって望ましくない展開でしょう。
(緊急事態だと全員に知らせなければ、たとえば仲間だけに伝わる暗号での会話も可能だった。しかし、現在では電話での会話などが一段と厳重に管理されているはず)
バック・ドアのタイミング
この危機を打開できそうな手はクラピカに残っているのか?
サイールドの〈裏窓〉(リトル アイ)が最有力の候補です。クラピカの鎖では届かないような場所から情報を探れる。
ただし、〈裏窓〉の使用中はクラピカが親子を守れません。クラピカ自身も ほぼ無防備に なるでしょう。
そもそも〈裏窓〉自体、どこまで利用価値の高い能力かすら不明です。リスクばかりでリターンは未知数と言える。
早くも手詰まりの予感が します……。
できる・ビル?
あとは、まだ登場していないビルの念能力も気になります。
ただし、監視や索敵に使える能力では ないでしょう。なぜなら、念獣が大量に発生した時ですらビルは念を使っていなかったからです。戦闘に関する能力なのでしょうか?
危機に対して対抗できる念能力だと良いですね。
──「泣き止まない赤ちゃんをあやす能力」とか……?(絶望)
(「ビル、イクメン説」とかいう頭の悪い考えが浮かんで消えないので一時中断)
防衛の拡大解釈
ラストの描写で今後の展開が見えてきます。
ビンセントは〈防衛権〉をおおっぴらに行使できる。その見せしめのためだけに、人ひとりの命を使いました。ほかのベンジャミンの私設兵たちも、今後は やりたい放題でしょう。
おそらく私設兵たちは全員が念を使えるはず。もしも人間を操る操作系の能力者が いたら、護衛の人間に王子を襲わせることも可能です。
(ところで、〈防衛権〉は『H×H』独自の言葉らしい。自衛権に対する風刺だろうか? ──ここで政治に強いブロガで あれば軽く持論を語れるだろうが、成績表で「社会: 2」な管理人は……。「答えは沈黙」)
おわりに
最後のアオリ文が小気味よかった。各王子と護衛の性格によって対応が分かれる、という意味でしょう。
放たれし刃!! 受けるか躱すか へし折るか──
タイトルの「終段」は、「演劇や映画の終わりの部分
」という意味です。
読者としては「王位継承戦編」(や『ハンター』の連載そのもの!?)の終わりには早すぎる。しかし、ベンジャミンから してみると、すぐにでも戦いを終わらせたい。
──という理由は後付けで、ただたんに「集団的自衛権」の語呂合せです。
中途半端な言葉遊びは今後も続けていきたい。たとえポエム未満で終わろうとも──。