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『カンガルー日和』 村上春樹・著

G'day
(哲学者のような──カンガルーもいる)

部屋の明かりをすこし弱めて、読書をするのにピッタリな夜ですね。こんな夜には、物語が恋しくなります。

そう、人間の想像力こそが、人間を幸せにする

村上春樹氏の小説を読むと、物語の力を思い知ります。とくに、短編小説が素晴らしい。短い枚数の中に、よくこんなにも奇跡を詰め込めるものだ──と感動します。

『カンガルー日和』もバツグンの切れ味でした。

本を開くと、中には 23 編もの素敵なストーリィが眠っています。さっと読めてしまうページ数なのに、ひとつひとつの話が 1 冊分の長編に化けそうなパワーを秘めている。事実、長編になったり映画になったり(!)しました。

楽しい比喩も満載です。エサをあさる父親カンガルーのことを、才能が枯れ尽きてしまった作曲家のような顔つきと表現している。こんな言い回しは、ほかの誰にも思いつけません!

好きな話

この本の中では、「とんがり焼の盛衰」を一番面白く読みました。タイトルのとおり、ヘンテコな話です。

あらすじを話すと数行で終わってしまうし、ネタバレそのものになるので、書きません。「とんがり焼って──何?」という主人公と同じ疑問を味わってください。

一番グロテスクな表現が出てくるのも、この「とんがり焼」です。彼の小説は、いつも急にショッキングな場面が出てきて、不意を突かれてしまう。

こわい話

ゾクッとする心理ホラーもあります。「鏡」は、仲間同士で集まってこわい体験談を話し合う──という状況を描いている。読み終わったあと、本当にこわかった。

何しろ怪談調の話なので、「くるぞ──くるぞ!」という恐怖感を想像します。そして実際に、映画なら BGM の音量を最大限に鳴らしそうな場面も出てくる。

しかし、こわいところは、そこではないのです。

主人公が、最後までたんたんと話すところに恐怖を感じました。最後の「オチ」もゾッとする。「その結論」にいたった主人公の気持ちを、自分のことと思って想像してみてください。

短編から飛び出した話

『カンガルー日和』の中で、「図書館奇譚」だけが特殊です。ほかの話は 10 ページほどで終わるのに、この話だけは 50 ページくらいある。

「図書館奇譚」は、みなさん(オレ)待望の──羊男が出てきます! 彼が出てくると、なんだか救われたような気がしますね。

参考: 羊男 - Wikipedia

ただし、本編の羊男くんは──なんとも頼りない。母性本能をくすぐるかもしれないけれど、残念ながら主人公は男です。でも、じつは──(続きは本書で)。

この話は、1 冊の本として再編集されました。

「村上春樹を読む」ということ

村上春樹と言えば、長編のほうが有名ですよね。『ノルウェイの森』や『海辺のカフカ』は(タイトルだけなら)誰でも知っている。

ただ──、ハルキの長編は難易度が高いのでは?

会話が洒落ているし、文体はかんたんだから、意外とスルスル読める。しかし、「──で、これはいったい何なのだ……?」と悩むはずです。グロテスクな場面も多い。

ふと思ったけれど、マザー・グースのおとぎ話や唄に近いかもしれません。『パタリロ!』のオリジナル・ソングと思われていそうな「誰が殺したクックロビン?」なんて、意味不明でこわい。

参考: マザー・グース - Wikipedia

さらにたとえると、映画で言えばデヴィッド・リンチ監督の『ロスト・ハイウェイ』、アニメだと押井守監督の『イノセンス』みたいな、「難解な面白さ」が村上春樹氏の長編小説にはあるのです。

ようするに、「ボクには分かるけれど、キミタチには早いよ」と言いたくなる──人もいるでしょうね、きっと! 自分の友だちの友だちが、そう言っていました(誰?)。

まずは、ハルキは短編から読みましょう。

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