『思い出トランプ』(向田 邦子・著) 『かわうそ』収録の短篇集

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『思い出トランプ』

向田 邦子さんの短篇集です。彼女の作品は初めて読みましたが、「中年男女の日常あるある感」がリアルに描かれていました(地味な中年版『らき☆すた』みたいな感じ?)(←たぶん違う)。

じつは、『爆笑問題のススメ』の番組内で、太田 光さんが [これはすごい] と言っていた小説、『かわうそ』が収録されているので、読んでみたのです。番組を見たのは、もう数年前になりますが、なぜか ずっと「『かわうそ』は すごい」というのが頭に残っていました。──って、数百円と数時間で解消できるんだから、もっと早く読めば良かったですね。

どの短編も語り手は四、五十代くらいで、まだまだ働き盛りだけど、肉体的には とうに盛りを過ぎた頃。日常の ふとしたことで、忘れていた「あの頃」や「あのこと」を思い出す──。

しかし、年を取ってくると、厭なこと、忘れたかったことも多くなるので、「あの頃は良かった」とばかりも言っていられないわけです。

──ということで、ちょっと暗い話が多いです。まぁ、0x21 歳にもなると、

「極彩色の髪をした男女(頭身低い)が学園内外で To Loveるに巻き込まれる話」

──ばかりを面白がっても いられないわけで。人生の、酸いも甘いも味わい尽くした人たちの話を読むのも、また「面白!」です。

『かわうそ』

『思い出トランプ』に収録されている話は、「男の情けなさと、女の したたかさ」を描いています。──まぁ、それを言い出すと、中年男女が主人公の話は、ほとんど それになりそうですが……。

なかでも、やっぱり『かわうそ』が凄かった!

脳卒中で倒れ、家で療養中の夫。年齢に似合わず可愛らしく笑い、セールス相手に他愛もない嘘で追い返す妻。──さて、いったい どこに「かわうそ」が出てくるのか、まずは それが気になるのですが、それは読んでのお楽しみ。

ラストの一ページで背筋がゾッとする、見事な終わり方です。このような趣向の作品は『かわうそ』だけですが、この一作はミステリィとしても読めますね。

『マンハッタン』

妻に出て行かれた夫の話ですが、状況的にニートの話としても読めます(笑)。──冒頭の、「初めて一人暮らしをする男」の感じがリアルで、パラサイトシングルに とっては、ホラー映画よりも怖いぞぉ(それなんてオレ?)。

男が、スナックとのママと知り合って仲良くなる顛末がメインなんですが、ここでも女の したたかさが、見事に描かれています。うーん、男って、一生 女には敵わないな、と思ってしまいます。

この話は、ラストが切ないですね。なんとも遣り切れなくなります……。「このあと」を想像するのも一興。

まとめ

全編を通して読むと、なんとも心悲しくて、人生には ちっとも良いことが無いんじゃないか、と思ったり(とくに中年以降の人生は)。──でも、どっこい生きている、みたいな。

そう、悲しくても切なくても、明日は やってくるんだよなー、と。まぁ、『思い出トランプ』に出てきた人たちの年代には、まだ(ギリギリ)なっていないので、いまのうちに、悔いが残らないように生きたいですね。

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