『21グラム』(21 Grams)
──いやはや。久しぶりに「やっちゃった」な映画でした。
豪華なキャストで、それぞれが最高の演技を魅せてくれるのですが、脚本と演出が残念な感じ。いや、正確には、演出のせいで脚本の善し悪しが わからなかった、という感じです。
というのは、作中に(広義の)カットバックが何度も起こるのですが、これが、まったく映画の雰囲気を台無しにしているのです。この演出のせいで、「ミステリィなのか?」と途中まで勘違いしていましたが、それもマイナス要因ですね。
タイトルの「21 グラム」の意味も、何となくわかったような わからなかったような……。
ただひたすらに、俳優・女優の演技を楽しむための映画、と割り切ってみるなら、お釣りが来るくらい素晴らしい演技が見られます。とくに、三人の女優の、演技を越えた狂気と来たら……。

- 21グラム
- ショーン・ペン ナオミ・ワッツ ベニチオ・デル・トロ
- 東北新社 2006-05-25
- 楽天ブックス: LOVE!シネマ2500::21グラム
by G-Tools , 2008/01/08
男性陣の迫真の演技
さすがにベテランばかりなので、素晴らしい演技が見られます。
なかでも、ベニチオ・デル・トロの後半の演技に注目です。銃を向けられ死を覚悟するシーンは、見ているほうも恐ろしくなるくらい、画面から恐怖が伝わってきます。
それに──彼が演じるジャック・ジョーダンという男の半生を思うと、なんとも 遣り切れない気持ちになりますね。自分が彼だったら──と考えると、途中で めげてしまいそう。けっして、彼の過去は ほめられたものではないですが、途中で応援したくなりました。
心臓移植手術を受けた男、ポール・リヴァースを演じたショーン・ペンの演技も良いですね。正直、彼は「暴力をふるう夫」というイメージが あるのですが、本作では自身と妻の心を傷つけながらも、必至に生きようとする男を熱演しています。
──まぁ、途中で、ある女性を誘うシーンがあるのですが、ちょっとキモイ(笑) でも、ここで見せる笑顔が、不器用な感じで好印象でした。
女性陣の鬼気迫る演技
さて──、三人の妻たちは、全員 鬼気迫る感じで怖かったですよー。
シャルロット・ゲンズブールが演じたメアリー・リヴァースは、心が離れつつある夫よりも、「あること」に執着しているのですが──。「あること」が達成できても、はたして彼女が幸せになれるのか、疑問です。
それでも盲進(猛進)を続けるシャルロット(の演技)は、ちょっと狂気が垣間見えます。未婚の自分には、ちょっと理解しがたいくらいの執着心で、怖かったです。女って……。
未亡人になったクリスティーナ・ペックを演じるのは、ナオミ・ワッツ。ナオミ・ワッツはナオミ・ワッツゆえに、キレイです(おいおい)。
しかし──。後半で、この悲劇のヒロインが豹変する──というか、化けの皮がはがれる というか、とにかく「え、いままでのキミは どこへ行ったの?」という変貌ぶり。女って……。
マリアンヌ・ジョーダン(メリッサ・レオ)の夫を かばう姿は、まだ理解の範疇です。──まぁ、流れ(笑)で「夜中に車を洗っているシーンが怖い」と言っておきましょう(ギャグです)。
ただ、彼女の「家族 >>>>> 夫 >(越えられない壁)>>>>> 法律・他人」という心理構造は、ちょっと行きすぎているような。女って……。
カットバック
カットバック演出の成功例として有名なのが『メメント』でしょう。この映画は、「事故で記憶が 10 分 程度しか保てない男」という設定の面白さと、カットバックによって「意外な事実」を隠すことに成功しています。二度三度と見ても面白いし、DVD 特典で時系列に並べ直してみても楽しめます。
しかし、本作の演出はダメでしたね。喩えると、「CM のあとで驚くべき事実が!」を CM 前にネタバレしてしまう感じ。
- 「CM のあと、『そこには元気に走り回るジョンが!』を流します」
- 「はたして、この親子の運命は──って、偶然にも助かるんだけどね。はいはい CMCM」
- 「あと 3 分後に『それにしても、このおやじノリノリである』です(おまいら好きだろ? ん?)」
──だれが そんな『世界丸見え』を見たい?
それくらい、本作のカットバックは失敗しています。だって、「はい、このあと誰々が銃で撃たれますよー」というのが、急に出てくるのです。これは──萎える。
せっかくのオーラを放っている演技が台無しだし、そもそも本作のような「人間ドラマ」には、凝った演出は不要なので、カットバックは無いほうが良かったですね。
まとめ
──あれ? 「カットバック厨 乙!」で終わりのはずが、なぜか こんなに長々と。
けっきょく、何だかんだ言って、面白がって見ていたんですよね。カットバックが無ければ……。
ああ、あと、タイトルの「21 グラム」って、本編を見ても あんまりピンと来ないかも知れません。しかし、見終わったあとに意味を考えてみるのも、また一興です。