日本語の作文技術
読む側にとってわかりやすい文章を書くこと
──その方法をまとめた 1 冊で、1982 年の初版から多くの愛読者を生んでいる(読むだけではなく、実践者も増えて欲しいところだ)。
本書がユニークなのは、「わかりやすい文章」を説明するために、「わかりにくい文章」──つまり「悪文」を多く出しているところ。悪文は新聞記事からの引用が多く、本当にプロが書いたのか疑問を持つ文章も多い。
「わかりにくい文章」の中には、一見しただけでは悪文と気がつかない場合もある。さらに、なぜ悪文になっているのかを説明できる人は少ない。本書を読むと、まず悪文の悪文たるポイントが見抜けるようになり、修正も容易になる。
「てにをは」や「、」(読点)・「修飾の順列」は、今までなんとなく書いていたが、本書を読んで はっきりと法則が分かった。これだけでも本書を手に取る価値がある。何度も読み直し、多くの文章を書き、完全に自分のものにしたい。
ところで、日本語の作文技術 – Google 検索から、本書の要点を箇条書きにしているページが見つかる。ただ、それを見ただけで(本書を読んだ気になって)、すぐさま文章が上手になる──という人は少ないだろう。そんな人は、きちんとした文章を元から書いていたはずだ。
さて、この記事のタイトルである、本書を薦めにくい理由とは──。
対象読者はだれか
「日本語を日常的に書く人、とくに文章を書く職業の方には必携の 1 冊です!」
──このように紹介されているのをよく見るし、自分もそう言いたい。しかし、何かが引っかかって強くお勧めできない。なぜだろうか──と悩んで読み返すと、最初の章に手がかりがあった。
第一章 なぜ作文の「技術」か
ここで作文を考える場合、対象とする文章はあくまで実用的なものであって、文学的なものは扱わないことを前提としたい。
『日本語の作文技術 (朝日文庫)』 p.9
本書が取り扱う「実用的」な文章とは何か。次の 4 つを挙げている。
- 論文
- 評論
- 解説記事
- 新聞記事
下に行くほど「事実的」なのだそうだ。──ウェブ上の情報に毒されている人は、素直に納得ができないのでは? それは別の話なので置いておくとして……。
つまり、上記の実用的・事実的な文章を書くための本なのだ。後半になるほど、「自分で取材をして、客観的な『事実』を集めて、(新聞)記事にする」話に特化していく。
「ブログ(ケータイ小説でも可)を書いているが、自分の文章に自信がない。もっと読みやすい文を書きたい」
という人には、同じ本多 勝一氏の著作の中でも、もう少し簡単に読める本を探したほうが良いかもしれない。
まとめ
前半でお勧めしたと思ったら、後半で急に逆のことを言って、申し訳ない。「正直に書く」難しさを感じ取っていただければ幸い(そんな人はいないと思うが)。
古い技術書ながら今でも通用する内容だし、書いてあることも理解しやすい。しかし、「単なる how-to 本」を求める人には手に余る。──そういう意味で、お勧めしにくいということ。
自分が書いた文章の読者を想定して、彼らに分かりやすく伝えたい。──そんな殊勝な心がけの人には、ぜひとも読んで欲しい。読んで得られるものは多いはずだ。
コメント
はじめまして。
『日本語の作文技術』 に対する当方の考え方は下記をご覧いただくのが手っ取り早いと思います(この長文で「手っ取り早い」のか?)。
簡単に言うと、いろいろ問題も感じるが名著だと思います。
「おすすめの文章読本を一冊だけあげろ」と言われたら、渋々これをあげると思います。
いまだに、これ以上の文章読本が出ていないことのほうが異常なんだと思います。
【読書感想文『日本語の作文技術』】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-137.html
【板外編2──読点と使い方の2つの原則と6つの目安】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-145.html
【第2章 4 句読点の打ち方】
http://1311racco.blog75.fc2.com/blog-entry-45.html
初めまして!
自分もなんだかんだ言って本書が手放せません。枕元に置いて、何度も読み返しています。
「お勧めの本を教えて!」と言われると、お気に入りの本であるほど「○○は勧めにくいよなぁ」と思ってしまいますよね。それこそがお勧めの 1 冊なのでしょう。
しかし、もうそろそろ、21 世紀の決定版! みたいな文章読本が出てもいいと思うのですが……。