バクマン。 #11-1 「後悔と納得」 見吉のパンチと岩瀬の涙

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『バクマン。』 11 ページ 「後悔と納得」 (週刊少年ジャンプ 2008 年 48 号)

今週号のジャンプは、冨樫先生の巻末コメントに注目。

川口先生、ぼくも人物はカブラです。聞いたら他にもいました。がんばります。

『週刊少年ジャンプ』 2008 年 48 号 p.464

さりげなく、カブラペンにダメ出しをしていたサイコーへのイヤミ? いやいや違うと思うが──。カブラでもピグマでもワコムでも、いい絵は描けるだろう。ただ、やはり G ペンでタッチを出した線が「ジャンプらしい絵」に合う──と言われている。読者の一人からすると、冨樫先生のように線を重ねてタッチを出す手法でも、どちらでも良い。面白ければ。

さて、前回のラストで あり得ない状況になっていた。続きはどうなったのか──。

付き合ってるみたい

見吉と岩瀬──女子二人がシュージンの部屋に押しかけている。そこへやってきたサイコーへ、シュージンは意外な事実を語る。

前回、シュージンのセリフからは「ケンカしたからモテた」と読み取れた。なるほど。時代が変わっても、拳で語る男に女は弱いのだろう。特定部位のサイズで一喜一憂する男どもの一人として、何も言えない。

しかし、実際は違っていた。それよりも以前から、岩瀬はシュージンのことが好きだったのだ。──サイコー、そこの棒きれとって(『レベル E』ネタ)。

岩瀬のこの告白は、ちょっと怖い。そんな人はいない、と思った人も多いだろう。だが──。

少し前のニュースで、冷凍技術を躍進させた男を特集していた。日本人だが、海外では「ミスターフリーズ」と報道されているらしい。──ちょっと検索したが、やはりミスター・フリーズ – Wikipedia の情報ばかり出てきた。その男が企業の社長か技術者か忘れたが、彼のおかげで冷凍の常識が一変したらしい。たとえば「冷凍マグロ」といえば二流・三流品と相場が決まっていたが、この冷凍技術によって一流品の生マグロと味が変わらない、とのこと。

ただ、それでも女性の「あの日・あの時・あの場所で・男が言ったこと」を覚えている能力には敵わない。何年前だろうが、キッチリと自分の感情を再現する。── 3 年前に怒らせたセリフを一字一句覚えているのに、3 時間前に食べたケーキのカロリィを忘れられるのは不思議だが──間違ってもそこに触れないように気をつけよう。

えっと、何が言いたいのかというと、岩瀬を「マンガだから大げさに描いている」と思って、現実世界で油断しないように>世の男性諸君

男らしく

こそこそとナイショ話をする男子たちの背に、見吉の言葉が刺さる。シュージンは説明を試みるが──。

シュージンは、基本的に素直な性格だ。親が「ああ」だったのに、グレもせずに正直に育った。それが今回は災いする。語れば語るほど、今回のシュージンはドツボだった。

まず、歌舞伎の見得を切るように、女子二人に説明するシュージンの姿が笑える。表情は格好いいのだが、内容が最悪だ。これは誰でも怒るだろう。でも、こういうときにウソ話を作れないヤツは、個人的に好きだ。──自分がウソだらけなので。

「以上です」の次のコマに注目しよう。女子の表情が二人ともキュートだ。とくに、正面から目を開いた顔の岩瀬は初めてではないか。引いた構図のせいか、デフォルメされたリス系のように見える。──あと、見吉が 100 億万パーセント「見えてる」のに、このコマ割がニクい。

この記事のタイトルを、「見吉のパンチら──」にしようかと迷った。パンチの複数形。このブログの品格が落ちるのでやめた(すでに底辺)。

好きか嫌いか

シュージンに対して、岩瀬は自分に好意を持っているか聞く。その答えを聞いた見吉は帰ろうとするが、シュージンは呼び止める。

上のほうで自分は最低な発言をした。asiamoth 株の大暴落が起きているだろう(え、元から?)。リーマンに続け、追い越せ!

今回のシュージンも、男を下げる発言がかなり多い。

堂々と二股をかける宣言をするシュージンに、見吉だけではなく読者の女性も怒ったのでは。──いや、こういう男にグッと来るひとって多そうだよな……。

ただ、これは、初めて口を開いた岩瀬の言葉が、じつに巧みなのだ(アリガチだが)。この質問で「嫌い」と言える男はいない。続く質問も「好き」と答えるしかない。さらに、見吉の前でシュージンに答えさせるのがウマい。

それにしても──。こういう状況は経験ないけれど、話に聞く限りでは、こうやって女同士は一切しゃべらない──らしい。怖い。隣にいるのに、お互いの存在は何光年も離れている。同じく、フッた男も遙か銀河の彼方に追いやれる。──女はすごい。

見吉も岩瀬も、シュージンに「好き」と言うときの顔が最高だ。この、ほほを赤らめる岩瀬は、もう二度と見られないのだろうか……。

恋愛は二の次

見吉は、「どちらと付き合うか」をシュージンに迫る。「男らしく」夢を語るシュージンに、女子二人の反応は分かれた。

シュージンのうろたえようが、悲しくも面白い。とくに、天井を見上げているシュージンの絵が最高に楽しい。狭いアパートの部屋・安そうな照明器具・ジャージメガネ・夢はマンガ家──どこを取ってもモテ要素がない。そりゃ、オロオロするよな。

そんなわけで、シュージンが夢を訴える場面は、迫力があっても、笑いを取ろうとしているように見える。けっこう、モテ男のみが言えるセリフなのだが……。

この場面では、「自分はマンガ家を目指すことに精一杯なので、二人とも付き合えない」と言うべきだ。そう言いきれないのは、シュージンの優しさなのか、煮え切らないだけなのか。今のうちに弾言、もとい断言できるようにしておかないと、大人になって苦労するぞ、シュージン。

後悔したくない

マンガ家の夢を否定する岩瀬に、シュージンは反論する。夢を追って破れて後悔するなら納得できる 夢を追わなかったことに後悔したくない、と──。

格好いいシュージンのセリフで、普通なら女子が二人ともメロメロ(古)になりそうだ。しかし──、そんなよくある展開にならないのが『バクマン。』である。

続くシュージンの発言をつなげると、「君たち二人より、サイコーを取る」ということか(曲解)。

岩瀬が去る場面が目に焼き付く──。岩瀬が帰るきっかけになった、シュージンの言葉が味わい深い。シュージンは、「好きじゃない」とか「見吉と付き合う」と言ったわけではない。岩瀬が考えられないような低レベルの高校へ、サイコーと一緒にシュージンは進学する。おそらく、その決意を語ることで、岩瀬が幻滅するとシュージンは考えたのだろう。

「頭がいい」岩瀬は、同じく成績優秀だったシュージンの進学先を聞いただけで、決心の固さを感じ取ったのではないか。──たしかに、笑えない場面である。

10 発殴らせろ

岩瀬が去った今、見吉の障害は なくなった。さらに、シュージンたちと見吉は志望校が同じと判明する。決まりだねと語る見吉に、シュージンは正直に話し始めた。

いつかは言うべきだった事実を、ようやくシュージンは告白した。理由はどうあれ、シュージンが見吉を「利用した」ことには違いない。見吉が怒るのも無理はないが──それにしても痛い「ツン」である。普段から自分は「ツン:9・デレ:1」こそ至高のツンデレと思っている。見吉は少し前からデレ状態なので、「デレ:9・ツン:1」くらいだろうか。こっちは究極のツンデレ? (たぶん、違うなー)

けっきょく、シュージンと見吉は付き合うことになった──のだろうか。サイコーにとっては、どちらでも良いだろう。マンガ作りに影響が出ないのなら、見吉の好意をシュージンも無視しないと思う。

まとめ

前半は、サイコーが完全に背景扱いだった。サイコーがいなかったら、もっと修羅場になっていた──ということも なさそう。見吉と岩瀬は、外野がいても自分を曲げないだろう。

ジャンプ編集部が舞台の後半は、感想がもっと長くなりそうだ。なんとか、明日一日で書き終わりたい。