バクマン。 #22-4 「邪魔と若さ」 振り向くエイジと亜城木先生

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『バクマン。』 22 ページ 「邪魔と若さ」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 09 号)

Bowling Shoes (by squarefrog) (by squarefrog)

誰でもボーリングが上手になる方法をご存じだろうか?

──正解は、「工事現場で何年も働いて修行する」である。

引っかけは さておき、ボウリングを上達する一番の方法を聞いたことがある。単純で誰でも思いつきながら、誰もが実行しない方法だ。

さて、今週号の『バクマン。』とボウリングの話とは、何か関係があるのだろうか? そして、その上達する方法とは?

観るんです

ボウリングが上手になる方法──それは、「上手な人とプレイする」だ。

たとえば、アナタが友だち同士や同僚たちと、普通にボウリングに行くとする。普段着や仕事着で、シューズもボールも借りてプレイするだろう。当たり前だ。そこに 1 人だけ「マイボール・マイシューズ・マイグローブ」の人がいたら、どう思うだろうか。たとえターキーを出しても、周りの顔は引きつっている。

まったく逆に、今度は知り合ったばかりの友人たちとアナタがボウリングに行ったとしよう。友人たちは、上から下まで完璧にマイ・ボウリンググッズで整え、スコアは 200 を軽く超えている。そんな中、なんとか 100 を取ったアナタは──恥ずかしい思いをするはずだ。

アナタは何も変わらないのに、環境によって自分の居場所や居心地が変わる

後者の例に挙げた友人たちと、その後も付き合いを続ける気ならば、ボウリングの上達は早くなる。なにしろ、そこではスコア 200 台が基準なのだ。自分だけが基準から外れていると、何とか標準のレベルに合わせようとする力が働く。マイグッズも揃えたくなる。そのうちに、自分も友人たちと同じくらいの点が取れるだろう。

ようするに、「コンフォートゾーン(Comfort Zone)」の話と言えば、分かる人は分かるだろう。

ほぼ日刊イトイ新聞 – 適切な大きさの問題さえ生まれれば。

──以上は、理想論に聞こえるかもしれない。しかし、「ヘタクソ同士、仲良くワイワイとボウリングをしていたら、いつの間にか上手になった」という話よりは信じられるはずだ。もしそんな人がいたら、それこそ天才だ。

サイコーが新妻エイジの作画を見たがるのはなぜか。自分をエイジと同じレベルに置いて、足りないモノを探ろうとサイコーはしているのだろう。

それに、絵を描くには何よりも観ることが大事だ。つまるところ、絵がウマい人の作画風景を観察する、というのは最高の絵の勉強になるのだ(ダジャレではないが、二重の意味を込めている)。

とはいえ、ギャーギャーとひとりで騒いでいるエイジを見学して、サイコーが勉強になるとは、読者からすると思えないよなぁ……。

ちょっと すみません

仕事場に来て早々、さっそくエイジの作画から学ぼうとするサイコーは、まさか邪魔ですと言われるとは想像しなかっただろう。

無駄にスタイリッシュなポーズをして、エイジが床に散らばった原稿を見ている。これは何をしているのか?

おそらく、コマやベタなどの配分を見ているのだろう。それも、いちページごとだけではなく、見下ろして全体のバランスを確認しているに違いない。

この場面を見て、大友克洋氏の伝説を思い出した。大友さんは消失点が原稿用紙の外にある場合、机にピンで留めた糸を使ってパースを決めたらしい。レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」も釘と糸を使ってパースを取った、と聞いた。絵の達人たちが行き着くところは同じ、ということか。エイジも、画面外の消失点を見ているのかもしれない。

亜城木先生

いちいちエイジはポージングが派手である。振り向きながらリモコンを操作していることにも注目だ。直前のコマでは羽ぼうきを左手に持っている。つまり、わざわざリモコンに持ち替えたあとで、サイコーのいるほうを向いているのだ。どうも、素でやっているようには思えなくなってきた。

エイジの大げさな振る舞いに慣れきった福田と中井が、先生という単語のみに反応しているところも面白い。いろいろとツッコミどころが多いのだが。「いぬまるだしっ」の たまこ先生がいたら、一コマごとに突っ込んでいる姿が目に浮かぶ。というか、もう一度くらいは「いぬまるだしっ」でエイジのパロディネタが載りそうだ。

「この世は金と知恵」をエイジは何度も評価しているが、過大評価にも思える。というのも、エイジを含めて、読者が目にした亜城木夢叶の作品は、「この世は金と知恵」一作だけだ。王道しか描けないエイジには、かなり優れた作品に見えたのかもしれないが、そんなに心に残っているのだろうか。

サイコーからすれば、あまり過去の作品を評価され続けるのは気分が良くないはずだ。作家なら同じことを思う。アーティストに一番言っては ならないことは、「○○みたいな作品を、また描いてください」である。まぁ、人によっては喜んで描くのだろうが、自分にはアーティストに思えない。

ここから先は、エイジとサイコーが対等な立場でマンガについて議論する。今週号で一番面白い場面だ。明日の感想でまとめられるか、ちょっと不安だ……。