HUNTER×HUNTER No.311 「期限」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 35・36 合併号)
待ちに待った『H×H』の再開です。今回も面白い!
ネテロ会長とシャウアプフ・モントゥトゥユピーの 3 人が描かれたカラー扉は、コミックスの 28 巻・29 巻と連動しているかのような構図です。どのイラストにも王は不在であることが、不吉に感じる──。
冨樫義博先生は、ほかの作家が嫉妬と絶望を味わうほどに、「マンガ絵」が うまい。ここで言う「マンガ絵」とは、マンガを面白く・魅力的にするための絵のことで、「デッサンが上手」とか「構図が素晴らしい」こと──では ありません。
今回のパームとイカルゴ・王を並べた見開きのページは、まさしくマンガならではの味わい深さのある絵です。「趣」も「種」も異なったモノたちがバラバラに散らばっているのに、調和している。こんな絵は、冨樫先生にしか描けません!
安定して不安定な彼女
初めて会ってから何時間も経っていないのに、もうお互いに「ツレ」みたいなパームとイカルゴが面白い。王への忠誠と 護衛軍の分裂
について語るパームは、何だか幼く見えて かわいらしかった。
そう、パームは かわいくて、それと同時に──恐ろしい。彼女には、この二面性をずっと感じ続けています。
絵のうまい冨樫先生が、なぜかパームだけはコロコロと絵柄が変わる。安定していない。キルアやゴンも、シリアスになったりギャグ絵になったりするけれど、いつも彼らは彼らです。ところがパームは、ときどき別人に見える。
「確固たる信念を持った不安定さん」であるパームを、絵のタッチで表現しているのかもしれませんね。
万能すぎる能力
【神の共犯者】は、いくらでも応用が利く万能性と、「バレたら終わり」という もろさを合わせ持っている。同じように「諸刃の剣」の念能力である【4 次元マンション(ハイドアンドシーク)】との連携で、世界の頂点を狙えます。
もしもノヴの精神力が強ければ、彼とメレオロンとの 2 人だけで「【神の共犯者】 + 【4 次元マンション】 + 【窓を開く者(スクリーム)】」コンボが使えました。撹乱役にモラウがいれば万全です。
今回の展開を見て、念能力だけではなく、兵器に頼っても良かったと思い直し、もっとも確実で被害のすくない作戦を考えました。
- メレオロンをキルアが背負う
- 猛毒入りの注射器を用意
- 【神の共犯者】を発動
- 【4 次元マンション】から出る
- 【電光石火】で走りながら、
- 「周」(物体をオーラで まとう)を使い、
- 王と護衛軍を一体ずつ毒注射で始末する
そもそも、「メレオロンと手をつないだパーム」が宮殿へ潜入すれば、彼女が冒す危険は最小限で済んだはずです。さらに、宮殿に出入りしているキメラアントをパームが事前に見ておけば、【マンション】から出るタイミングも はかりやすい。
カイトの救出にしても、0.1mg で クジラとか 動けなくする 薬
(『HUNTER×HUNTER (11)』)をピトーに打てばいいだけです。王の対処が終わったあとで、ゴンとピトーが対決する場を作る。
──と考えたところで、もちろん、そんな面白味のない話は誰も望みません。自分も読みたくない。
毒とドクタ
薔薇には毒があった
ことを知り、まっ先に思ったことが 2 つありました。まずは──、
毒なのであればキルアには効かないのか?
「鍛えているから、毒は効かない」とキルア(作者)は言うけれど、そうとうムチャな設定ですよね。「蚊女」と戦った時(『HUNTER×HUNTER (19)』)には、「未知なる生物の毒」すら効かないことを証明しました。──そんなの、どうやって鍛えるんだ?
「毒にも薬にもならない」という言葉があるように、すべての薬は毒にも なり得る。実際、キルアには下剤の効果もなかった(『HUNTER×HUNTER (1)』)。
ゾルディック家の人間は、風邪を引いたら死ぬのかも。
──それは冗談だとしても、たとえば、キルアが新型インフルエンザに かかったら、治療は できないのでは? 医者もビックリです。イカルゴがキルアを連れて行った病院の医師も、まともであれば(異常であれば?)キルアの体をもっと調べたかったはず。
それとも、自分の体にとってプラスに働くか・マイナスかを見分けて、キルアは毒だけを無効化にするのかもしれない。
バラのトゲを抜くには
もう一つ考えたことは、「貧者の薔薇(ミニチュアローズ)」用の解毒剤は存在するのか。──これはたぶん、あるのでは?
そう考える根拠は、パームの余裕です。ナックルとメレオロンは王に直接さらわれたのだから、「被毒」している可能性が高い。彼らを見殺しにする気は ないところから、解毒剤などの治療の用意をしていると思う。
パームが狙っている「王との交渉」とは、ナックル・メレオロンと解毒剤とのトレードだと見ました。
──ただ、(ナックルたちが亡くなる)数時間の内に
解毒剤を用意する準備は できているのでしょうか? も、もしかして、パームは女の子だから、あの、その……(何のことか分からない人は、『バトルランナー』を観よう。──観ても分からないかも)。
と思ったけれど、【4 次元マンション】の中に治療班が いたのでした。しかし、治療できるのかなぁ……。
おわりに
3.11 の傷跡が まだ深く残り、終戦の日を間近にひかえた 8 月の日本で、『H×H』は再始動しました。こんな時期に、まさか被爆した者の話を描くのか──と思いきや、いつものように作者は斜め上を走り抜ける。
「被毒(ひどく)は ひどくね?」──と正直なところ思ったけれど(書かなければ良かった)。
上で書いたように、治療の可能性を残している(と読者に思わせる)ことで、話に広がりが できています。「薔薇」が原子爆弾だったら、こうは ならなかった。
たとえば、「放射能の汚染を除去できる念能力」も出せたはずです。ところが それを描いてしまうと、「念だったら何でもできるのか」となる。東日本に住む人は、余計に複雑な心境でしょう。
非人道的な 悪魔兵器
・「貧者の薔薇」の毒を説き、それによって被害を受けた者・利益を得た者の貧富を描く。そこからは、社会への風刺や反戦の意図が読み取れます。
とくに貧富の差による問題は、かなり以前から──グリードアイランドに登場するビノールトの過去から描かれていました(『HUNTER×HUNTER (14)』)。彼からは同時に、「絶望的な才能の差」も学ばされる……。
日本と世界の現状を見て、作者は何かを訴えたかったのでしょうか。それとも、ただたんに「いまの世の中のムード」を絵にしただけ なのかもしれない。
「作者が どう考えている」かは、それほど重要ではありません。大切なことは、読者である自分(あなた)が どう読んだか・どう考えたかです。他人に答えを求めるよりも、自分の頭を使ったほうが、物語の力をよりいっそう味わえる。
そしてその「思わせぶり」を描かせたら、冨樫先生は天下一品です! まさに──読者に毒を仕掛ける悪魔。
コメント
ユピーが鼻血を出していたのも毒のせいだったんですね。
いくら小さくなったユピーといえどウェルフェンに倒されるのはおかしいと思っていました。
しかし、この毒の影響範囲がどのキャラまで及んでいるのかと、果たして王にも有効なのかが気になりますね・・・。
ただ毒で死ぬだけじゃ芸がないので、それをどう料理するのかが気になるところです。
ここまで長々と引っ張っておいて、次回あたりで
「王が、ただ毒で死ぬ」
くらいの爆弾は放り投げてきそうですけどね、
冨樫先生は……。
ちなみに、ここだけの話ですけれど──。
「被毒」という言葉を冨樫先生の造語と思って、
誇張して書いたのでした。
そうしたら、普通に日本語の熟語だったという。