『HUNTER×HUNTER(ハンター×ハンター)』 No.28 「再生」
待ちに待って待ちすぎた『H×H』の 28 巻が発売されました! 宗教画のような表紙からして尋常ではないオーラが出ているけれど──、中身はもっとスゴいぞ……。
「週刊少年ジャンプ」に掲載された内容と、この巻の内容は、まったく同じだと思います(重複したタイトルだけ修正)。すくなくとも自分には、違いが分からなかった。
それでも、届いてから何度も何度も読み返しています。それくらい、面白い!
28 巻の見どころ
ネテロ会長と王との戦いが、最大の見せ場です。ほかにも息詰まるバトルはあるけれど、やはりこの 2 人の戦闘に目を奪われました。
生物としての限界を超えた速度を誇る「百式観音」を繰り出す会長と、そんな攻撃が直撃しても無傷な王が向かい合う──。まさにバケモノ同士の戦いで、「盾と矛」の話を思わせます。
そして、どちらが勝っても──読者にはイヤな後味が残る。普通だったら、「正義の味方」である主人公側を応援しますよね。しかし、今となっては、王のことを「倒すべき悪」と単純には思えなくなっている。おそらく、会長にも同じ思いがあったでしょう。
2 人の戦いは終わりましたが、どちらが「勝った」と言えるでしょうか?
バトルの面白さ
『H×H』は、「バトル会話」が上手すぎる! 「バトル会話」とは(いま考えた)自分の造語で、「口を開かなくても、戦闘そのものが相手との会話になっている」様子を現わします。
バトル・マンガの多くは、「オレ、パンチ、すごいー!」「よける、私、速い、まわりこむ、うしろ」「かっこうよくキメて、燃える!」という ぎこちない「バトル会話」しかできていません。
しかも、たいていは「自分の得意技を見せつけるだけ」です。そのあげくに、「○○(技名)は、ひとたび発動すると 私自身でも うんたんうんたん」とベラベラ話す、自己 PR の場と勘違いしていたりする。
ネテロと王との戦闘を見てください。彼らは拳だけではなく、お互いの心も交えている。さらには、ヒトの在り方・アリの生き方についても、言葉なしで語っています。
一方、ウェルフィンとイカルゴは、「あくまでも交渉に持ち込もうとする者」と「何も聞き入れない者」との断絶を描いている。「自分の命を惜しむ者」と「仲間のために命を捧げる者」との間で、会話が成り立つわけもないのです。
同じような対比は、キルアと「彼女」にも見られますね。「バトル会話」が描ける作者だから、「会話を拒否する者」も描けるのです。
黙って 死ぬ !? しゃべってから 死ぬ !? それとも 死ぬ !?
『HUNTER×HUNTER (28)』 p.64
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『H×H』の単行本が出ていない部分は、「ジャンプ」から切り取って保管してあります。コミックスと本誌の違いが気になる! ──「いっさいの加筆・修正なし」という可能性も濃厚ですけれど……。
過去の記事は、こちらをご覧ください:
- HUNTER×HUNTER #291 『自問』 武の極み・出会いへの感謝 : 亜細亜ノ蛾
- HUNTER×HUNTER #292 『思惑』 王の誉め言葉 : 亜細亜ノ蛾
- HUNTER×HUNTER #293 『変貌』 彼女の殺意 : 亜細亜ノ蛾
- HUNTER×HUNTER #294 『決壊』 限界・破壊・堺 : 亜細亜ノ蛾
- HUNTER×HUNTER #295 『決意』 それぞれの意思 : 亜細亜ノ蛾
- HUNTER×HUNTER #296 『記憶』 もう一度会いたい人 : 亜細亜ノ蛾
- HUNTER×HUNTER #297 『最後』 零・一個・百式観音・千の拳 : 亜細亜ノ蛾
- HUNTER×HUNTER #298 『薔薇』 人を呪わば穴 512 万 : 亜細亜ノ蛾
- HUNTER×HUNTER #299 『再生』 我が子を抱く母のように : 亜細亜ノ蛾
- HUNTER×HUNTER #300 『保険』 彼女を人間扱いするのはひとり : 亜細亜ノ蛾
- そのほかの記事: “HUNTER×HUNTER” アーカイブ: 亜細亜ノ蛾
おわりに
正直なところ、「貧者の薔薇(ミニチュアローズ)」に頼った作戦は、根本から間違っていたと思いました。いろんな意味で残念な結果に終わることが、最初から目に見えている。ざっと考えただけでも、あの作戦の欠陥が次々と頭に浮かびます。
- 王をあの場所へ連れて行く困難さ
- 「発動の条件」
- 仕留められない可能性(ヂートゥなら間にあった?)
- 爆破後のほぼ確実な国交断絶(元から最悪だけど)
- 王の生死を確認する方法は?
- 護衛軍が次の「王」となる展開
- 念能力者の集団・「ハンター協会」の否定
単純に王を倒すだけなら、たとえば「九十九乃掌(つくものて)」で「4 次元マンション(ハイドアンドシーク)」の入り口に押し込めて、致死性の毒ガスで満たした部屋へ王を閉じ込める──など、ほかにも方法はあったはず。
あるいは、「零の掌(ゼロのて)」を「みずからの命と引き換えにして、貧者の薔薇と同等の爆発を起こす」というベタな設定でも良かった気がします(それだと、次の巻でユピーのある描写に つながらないけれど)。
そう言えば蟻たちは、「自身のオーラで武装した人間の兵」を利用しようと考えました。脳の改造や洗脳ですら、ピトーやプフの念能力を使っている。
常人よりも頭が良い王やピトー・プフなら、いつかは「兵器による武装は、念能力よりも効率が高い」ことに気がついたかもしれない。しかし、彼らは本能的に、自分自身が持っている能力に こだわったのでは──と考えます。
たぶん、「科学の力こそが、人類の最大の力」という描写なのでしょう。ネテロが何年も費やして、魂を削って会得した拳よりも、一個の薔薇のほうが強い。その事実を胸にひそめて、会長は何を思ったのだろう……。