HUNTER×HUNTER 22 巻 「8-1」 2 – 餓死×貸し×可視

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『HUNTER×HUNTER(ハンター×ハンター)』 No.22 「8-1」

victorian bat costume 意味は同じでも──似て非なる

前半のカラッとした展開とは打って変わって、後半には闇が立ちこめていました。先へ進むほどに不安が広がる──。

一方で、単行本化の際に大量の加筆があって(当時は)驚きました。「ジャンプ」掲載時と展開は同じなのに、受ける印象が まるで違います。このサービス精神は うれしかった!

たとえるならば、クラピカとゴレイヌの外見だけを入れ替えて、そのほかは全く同じ『H×H』くらいの衝撃です。──たとえなければ良かった。

No.230 「9-1」

東ゴルトーへ潜入するゴンとキルアは、なんだか教師の目を盗んで寮から脱出する学生みたいに見えました。キルアの筋力からすると、もっと筋骨隆々じゃないと おかしいですよね。首から背中の線が、いかにも子どもな感じです。

指組」という密告システムの存在や、人民に流す嘘の情報、貧富の差の状況などが、「あの国」をモデルにしていること丸出しですね。下の知恵袋もご覧ください。

「HUNTER×HUNTER」に関する質問です。 東ゴルトーのマサドルディーゴ総帥の名は、… – Yahoo!知恵袋

暗殺で潜入したことがあるというゾルディック家の人間に、一部特権階級の人間をこらしめてもらったら どうか──なんて考えました。たぶん賛成してくれる人も多いと思うけれど、この考え方こそ、独裁者と同じなんですよね……。


キルアが気づいた国民大会の 真の目的は、「選別」を一度に行なうという不自然さも同時に解き明かしました。これも また「言われてみて初めて分かる違和感」で、あいかわらず前提の ひっくり返し方が上手です!

普通の人間でも「選別」が できるように操ればいい──という考えを、即座に思いつくところも見事でした。このキルアの予想が どれだけ突飛なのかは、あらためて下で書きますね。


5 万人の念能力者を強引に生み出して、即席軍隊を使って世界中へ侵略戦争を仕掛ける──という予測を元に話が進んでいます。最悪の事態を想定して備えることには納得できますが──。

無理やりに念能力者となった人民が、素直に戦争へ参加するのだろうか? ──この疑問も、先の展開で分かる仕組みです。東ゴルトーの「教育」を受けた人間であれば、普通に戦いそうですけどね……。

No.231 「9-2」

キルアが神経質になっていた理由は分かりにくかった。ゴンを守り続ける──と自分自身に誓ったから、ここで離れることが気がかりだったのでしょうか。

たしかにゴンは、強く釘を刺しておかないと勝手に動き出しそうです。事実、「お前は 潜め」というキルアの指示も守り通せなかった。──それはゴンのせいでは ないけれど。

それに、キルアと比べるとゴンはノンビリしているように見えます。パームとのデート中も、キルアがストーカ──もとい見守っていなかったら、おそらくラモットに見つかっていました。

この場面でも、2 人を監視している不気味な存在に、キルアだけが気付きかけている。──いや、ゴンがボーッとしていたわけではなくて、キルアの察知能力が異常に鋭いだけですけどね。

監視している者の「王を 狩りに来たか …… !?」というセリフが絶妙です。彼(?)の真意を読者に想像させる──という作者の仕掛けたワナですね。誰でも だまされるよなぁ。


マルコスを亡命させる話は、いくら「ビジネスは ビジネスだ」とは言えども、モラウとノヴという「現場の人間」が行なう仕事では ありません。本来は別の人間が適任だけれど、東ゴルトーに潜入しているハンターが少ないのでしょうね。

この有能なハンターの人材不足は、すでに始まっている「選別」を止められない原因になっています。

ナックルがガマンできない理由も よく分かるし、シュートだって本心は同じ怒りを覚えているはず。しかし今の 2 人には、できることは限られている。もどかしくて耐えがたい心境でしょうね。


大蛇のキメラアントは、以前に出てきたアルマジロと似た戦法でゴンを攻めてきます。木々を利用して空中からも襲いかかれるから、より強力な敵ですね。ゴンの腕力が なければ食われていました。

どれだけ「絶」状態で気配を消しても、特定のキメラアントには見つけられる──という恐ろしい事実が示されています。動物の特性を持ったキメラアントの強みですね。


急に現われたキメラアントの 2 人組を、ゴンは「フクロウと コウモリ」と呼んでいます。しかし、フクロウの胸元には「3329」(ミミズク)と書いてあるんですよね。両者の違いは、Wikipedia で勉強しましょう!

ミミズク – Wikipedia

「ジャンプ」収録時のフクロウとコウモリは、もっと野性的なイメージでした。この入魂の加筆作業で、作者は大変だったのでしょう。

とくにコウモリの変化が激しい。できればコウモリの服装は、「ジャンプ」版のままにして欲しかったな……。

虚言日記 ~Kyogen Diary~:HUNTER×HUNTER単行本の加筆・修正について

No.232 「9-3」

コウモリ型のキメラアントは、プレイステーション用ソフト・『攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL』の草薙素子を思わせるゴーグルと髪型です。『攻殼機動隊 オリジナル・サウンドトラック』も素晴らしいから、ぜひ聴いてみてくださいね!

PS 攻殻機動隊 オープニング (PS GHOST IN THE SHELL OPENING) – YouTube

エコロケーションで「見る」ことよりも、ゴンのパンチをかわせるほどの回避能力のほうが、コウモリの強さを感じます。「空を飛べるヂートゥ」といった感じがする。

そもそもゴンは、空中にいる相手に対して対抗手段が少ない。だんだんとゴンの苦手な相手と戦うようになってきましたね。

コウモリの急降下は見るからに素早そうで、ゴンの聴力が なければ食らっていました。寸前で かわしたゴンは、声で攻撃するよりも、そのまま抱きついて捕まえれば良かった気がします。

──いまからでも遅くないから、そうするべきだッ!


集中するまでに時間が かかるゴンには、フクロウも かなり面倒な相手です。フクロウの羽には攻撃力が皆無だけれど、キメラアント特有の毒でも持っていたり、頸動脈に刺さっていたら、この時点で負けていました。

ゴリラモード」に変身したフクロウを見て、「もしかして…… ゴレイヌ!?」とかゴンが勘違いしたら おもしろかったですね。──いや、この時点では その可能性もあるから、あまり笑えないか。

音で刺し 力で殺る」という 2 人の戦い方は、ゴンみたいな「レアモノ」との戦いに慣れていることを思わせます。東ゴルトーや NGL には、そんなに念能力者が多かったのかな。

No.233 「9-4」

驚いたことに、この段階で ようやくゴンは「凝」で見ることを思い出しました。この場にビスケがいたら、フクロウとコウモリのコンビよりも痛めつけられていたはずです。あの修業の日々は、何だったんだ……。

超不協輪怨」(シークレット ノイズ)を出しているコウモリのポーズが良いですね! 技名の活字を貼る前の原稿は どうなっていたのか、くわしい調査が必要です!

超音波 出し放題(だしまくり)」というセリフと、さりげなくフクロウが耳をふさいでいる点も楽しかった。

ゴンのように自然界で耳を鍛えた人間(や驚異的な聴力のセンリツ)には、超音波攻撃は厳しすぎます。自分は耳鳴りに悩まされていますが、この何十倍も苦しいのだろうな……。


コウモリは単体で攻撃しても鋭いし、逃がすと仲間を呼ぶ可能性まである。そして、なによりもフクロウとの「完全統制された コンビネーション」が最高に やっかいです。

ところがゴンは、彼らの最大の長所を弱点だと見抜きました。いつもながらゴンの発想力が素晴らしい! もちろん、ゴンが苦手とする相手を出した上で、正々堂々とした倒し方を考え出した作者が一番すごいですね。

「ジャジャン拳」の「グー」は、いつの間にか溜めた状態で走れるように なっています。しゃがみ歩きできる『ストリートファイター』のガイルみたいな強烈さ!

そんなゴンを、闇から見つめる者がいる──。

ゴンの能力に目を付けているから、『幽☆遊☆白書』に出てきた「相手の能力を食う能力」の持ち主でしょうか。クロロの「盗賊の極意」(スキル ハンター)とカブっているけれど、「食う」ところがキメラアントにピッタリです。

No.234 「9-5」

ネフェルピトーが操作している「人形」は、何十・何百キロメートル先にいても操れるらしい。おまけに、単純計算で言えば 500 人くらい「人形」は存在するはずです。

これはキルアの予測と一致していたわけですが、それほどネフェルピトーが桁外れの念能力者だという発想を出せたことは すごい。これまでに出てきた「操作系」の能力は、せいぜい数十メートルが操作の範囲でしたからね。


シャウアプフは、王宮でヴァイオリンを弾いてばかりいます。彼の羽から考えるとチョウチョが元になっていそうですが、その性格は『アリとキリギリス』のキリギリスみたい。

そこから考えて、もしかしたらシャウアプフはキメラアントとは別の生き物なのか──といった「思考の甘い罠」にハマってしまいたくなる。


「ハギャ」を頭とした 3 人が、こんなにも早く宮殿にいた ということは、女王が王を産んだ直後に行動を開始していたのでしょう。

女王の巣では、大半のキメラアントが「王は敵だ」と考えていたはずです。そのなかで「ハギャ」たちは、すでに自分たちの限界と その先を見ていた。

下手をすれば「ハギャ」は、自分から「極上のレアモノ」として王に身を捧げる可能性もあったけれど、それでも利点を取る決断の早さが素晴らしい。

この「食うか食われるか」という食物連鎖の世界は、なんだかビジネスの世界とも似ていますね。人間の社会も、動物たちの生存競争と変わりません。

どこでも誰かが誰かを利用して生きている。


ネフェルピトーや「ハギャ」たちが、携帯電話の使用方法を知っていたのは不思議です。なにより産まれたばかりだし、かりに人間だったころの記憶が残っていたとしても、NGL には電子機器なんて持ち込めません。

ただ、「ハギャ」たちは麻薬工場あたりにいただろうから、携帯電話くらいは持っていたでしょうね。キルアの携帯電話も世界中で普通に使えるらしいから、電波の問題もありません。


ヂートゥを捕まえ損ねたことに対して、ナックルは単純に怒っています。ポットクリンが解除されないと、今後の戦闘にも影響しそうだから、彼の怒りも納得できる。

事情に詳しいモラウは、別のことで腹を立てています。ただ、この場面だけだと、ノヴが(まだ見ぬ)副会長に肩入れをしているのでは──という印象だけで終わりましたね。

ここに出てきた「協専のハンター」や「副会長派」という言葉は、遠い遠い先の展開で重要になってくる。どれだけ先のことまで作者が考えているのか──と ただただ驚くばかりでした。

あるいは、後から話をふくらませた可能性もあります。自分の大好きな『バクマン。』の劇中で、今までに描いた話をすべて読み直して伏線を拾い直すアイデアが出てきました。冨樫先生も、同じようなことをしているのかもしれませんね。

どちらにしても、これほど上手に伏線を生かしているマンガ作品は数少ない。とくに週刊連載のマンガは、行き当たりばったりの展開ばかりで、困ったら「新章突入!」で終わりです。

この作品から学べることは数限りない。すべてのマンガ家が冨樫先生に なれるわけではないけれど、すべてのマンガ家は『HUNTER×HUNTER』を手にとって読めます。ぜひ、いろいろと学んで欲しいですね(どのマンガ家に?)。


総帥様の玉言」が国中に流れる場面は、妙に現実味がありました。「かの国」でも、このような放送が流れていたのかな……。

緊迫した状況ですが、「少し うれしそう なのは 気の せいだと 思いましょう」という書き文字とノヴの表情には笑いました。こういう「くすぐり」が上手ですね。

登場したばかりのころのモラウは、そう言えば いつも不敵に笑っていました。それが最近では しかめっ面ばかりです。

もちろん、モラウの「キャラが固まっていなかったから」に違いないけれど、いま考えると「会長の近くで役に立てて うれしい」とも取れる。どう考えても彼は「会長派」ですからね。


戦車だろうが 戦闘機だろうが 全部 止めてやるよ」と意気込むキルアには、不吉な未来を感じました。

たしかに、少なくとも人間や「人形」が操縦する戦車よりは、キメラアントのほうが強敵でしょう。だから本当にキルアならば、兵器にも平気で戦いそう──だけれど、さすがに戦闘機は対抗する手がない。

むしろ、たんなる強がりのほうが良さそうですが──。

No.235 「8-1」

前回では政治面が濃くなってきました。しかし これは少年マンガなのだから、「拳と拳で語り合う」分かりやすい展開が見たいところです。

そこで、ナックルとシュートを出してきたのは効果的でした。ヂートゥを待ち伏せする 2 人を描くことで、レオルたちの動きも見られて、今後の戦いに期待が大きくなります。

政治面と言えば、ヂートゥを取り込もうとしたり余計な仕事は増やさないレオルも、ビジネスマンというか政治家みたいでした。将来は王に返り咲く気が満々な彼は、人間時代も裏世界の幹部だったのかな。


今回から、さりげなく「ハギャ」が「レオル」という名前で呼ばれています。おそらく作者のミスだけど、おもしろい伏線として動き始めている。

携帯電話を「耳」に当てるレオルの姿も笑えました! そうか、そりゃライオンなんだから、耳は上のほうに付いていますよね。本当に彼が王様になったら、「ライオン専用の携帯電話」を作らせるに違いない!

ところが同じ猫族のネフェルピトーは、「人間の耳の位置」に携帯電話を当てているようにも見えます。「猫耳」と合計して 4 つの耳が あるのでしょうかね? あるいは、この電話が ものすごく長い「くの字」型なのかも。


ヂートゥとレオルの会話も楽しかった。お互いに利用し合う関係だから、のんびりした口調のなかにも緊張感が漂っています。

王への 忠誠を「楽勝だろ?」と言うレオルも興味深い。前半のシャルナークの話にも繋げられます。察しがいいヂートゥの返答も軽快で良いですね。

ネフェルピトー・レオル・ヂートゥは、三者三様の考えで自分勝手に動きながら、結果的にはキメラアントの王のために なっている。そして人間側──とくにキルアへの驚異に成長していきます。

話の流れが小気味良くて、不安感を甘く味わえました!


東ゴルトーの住民には反逆者と ののしられたり、ネフェルピトーが先読みした方向へ走って見つかったり、キルアには不利な状況ばかりです。やはり、ひとりですべて背負い込むのは無理が ありました。

たとえばゴンがいれば、トンボ型にも連携して 2 人で戦えたかもしれません。あるいは、ナックルとシュートに連絡する手もある。──ただ、キルアの性格から考えて、全部ひとりで やりたがるでしょうね。

トンボのようなキメラアントの「視える」能力も、迫り来る「レオル陸軍」も、どちらも正体不明で不気味です。キルアは、たったひとりで勝てるのだろうか──。