『バクマン。』 112 ページ 「パンチと一人立ち」 (週刊少年ジャンプ 2011 年 01 号)
『バクマン。』を長く読んでいると、「マンガは原作と作画が分かれて描くものである」とすり込まれてしまう。──そんなこと、ありませんか?
なんだか、「1 人でマンガを描く」ことが、よっぽど特殊な能力に思えます。実際にそのとおりなのですが、ほとんどのマンガ家志望者は、自分ひとりの力でマンガを描こうとする。
しかし、誰にでも苦手な分野はあります。
絵はバツグンに上手でも話が作れない人や、話作りは面白いのに絵が描けない人もいる。複数人でマンガを描くことを知らなければ、彼らはマンガ家をあきらめるでしょう。
『バクマン。』をきっかけにして、マンガの世界で自分の力を試したい人は、以前よりも増えたはずです。ムリをして何でも 1 人で描く──必要はない。
個人的には、蒼樹紅の作品で「エロ担当」になろうとした、石沢のポジションが一番おいしいと思う。実際に、存在するのだろうか……(ゴクリ……)。
青春してたって ………
カヤが 2 人の殴り合いを目撃したのは、ほんの一瞬だったはず。それなのに、2 人共 ヘッピリ腰
だったことを見極めていました。さすが、元・空手選手ですね。
ケンカの前も同じだったけれど、戦いについてチマチマ語るところが、なんだか『バクマン。』っぽくて面白い。ほかのマンガだったら、シュージンのセリフは「いてて……」で終わる。
殴り合って 仲良くな
るならば、戦争してる国は 仲良くなるって ことになる
──というシュージンの言葉は深いです。
もしも実際に、戦争後に仲良くなる国があったとしたら──、それはそれで恐ろしい。戦争で失われた命は、残された家族は、笑顔で救われるのだろうか?
やや近い話は、森博嗣さんが原作を書いた『スカイ・クロラ』シリーズです。この作品の世界では、戦争法人(戦争請負会社)が戦争を管理している。「仲良く」はムリだけれど、ビジネスライクに戦争をしています。
- 『スカイ・クロラ』 劇場で森博嗣作品を見る至福 : 亜細亜ノ蛾
- 『スカイ・クロラ』の主人公、草薙水素と函南優一 : 亜細亜ノ蛾
- 『スカイ・クロラ』の名脇役、土岐野尚史・三ツ矢碧・フーコ : 亜細亜ノ蛾
サイコーもシュージンも、お互いを傷つけるために離れたわけではありません。仲たがいではないのです。そのため、ちゃんと元通りの仲になりましたね。殴り合ったことで、より一段と仲良くなったかも。
目に微笑ましい、さわやかな青春のひとときです。
で このネーム だけど
「遊びの時間」は終わりました。
すぐさま仕事のモードに入ったシュージンは、サイコーのネームから悪いところを割り出しています。彼が現在のネームを読んだのは、つい先ほどでした。ほんのわずかな時間で改善点を見つけ出せるのは、優秀な原作者ならではですね。
サイコーも、ネームの問題点をすぐに理解している。
ひとりで頭を悩ませていた問題が、誰かに話した瞬間に解決した──ということは、よくあるものです。
それにしても、本来であればネームをより良くするのは、今回は服部の仕事だと思う。話の都合とはいえ、今回ばかりは服部も、仕事に手を抜いたように見えてしまいました。
白鳥を独り立ちさせるために、シュージンが鍛えている──という情報も、服部は早い段階で知ることができたのでは? 別にシュージンは隠していたわけではないので、サイコーとカヤに服部が教えられた気がします。
それを言い出すと、何も描けないケド……。
サイコーとシュージンが真剣に話し合っている。その姿を見て、思わず笑みがこぼれるカヤは、本当に良い表情をしています。美しい。
(アマチュア)カメラマンとしては、救急箱を持ってニコニコしているカヤを、写真に収めたいです。
マンガみたいに「目をつぶって笑う」人はほとんどいないし、満面の笑みは写真ではウソっぽく見える。「次の瞬間に笑う」という直前の表情が好きです。
先輩が そうしたん ですか?
原作も作画も、両方とも白鳥が 1 人で描けるようになった──という展開は、やや唐突に感じますよね。サイコーがあれほどネームに苦しんでいたのに、白鳥はとっとと作家デビューを果たしている。
しかし、もともと『恋太 & ピース』は白鳥が原案をネームに描いて、シュージンは手直しをした──という経緯でした。『恋太』の立ち上げは、最初から白鳥が 1 人でやっていたのですね。
白鳥がシュージンに甘えてばかりいなくて、良かった。
さりげなく服部が言った、高木くんは いい編集になれる
という言葉は面白い。目の前にいる港浦に対するイヤミにも聞こえます。人を鍛えて育てる能力が、港浦には皆無ですからね……。
編集部にいる港浦は、いつも空気を読まずに先輩へ質問をしている。そのおかげで、話が進みます。この能力が、仕事に結び付いたら良いのだけれど……。岩瀬と打ち合わせする時は、ヨイショしかしていない。
充分だと 思うが
ここまで白鳥が自立できているとは、驚きました!
よく考えてみると、白鳥は最初からしっかりしています。あの息苦しい温室のような家に彼がいる時も、自分の好きな道──絵を描く仕事を目指していた。そして、自分からマンガのアシスタントを始めたのです。
これまでの白鳥は、こまごまとした世間のことを知らないだけだった。元から意外と、自立心が高いのかもしれませんね。
絵の才能に恵まれているし、家はお金持ちだし、優しい(スタイルがグンバツの)姉もいるし、しっかりしている──、それが白鳥シュンです。おまけに今回、協力的な友人がいることも分かりました。
どんだけ高スペックなんだよ……。
『恋太』は白鳥の作品だ──と新妻エイジは言った。その発言の真意は、どこにあるのでしょうか。自分なりに考えて、以前の記事に書いてあります。
バクマン。 #110-1 「一緒と別々」 問題のタネと『LOVE 力 A to Z』 : 亜細亜ノ蛾
上の記事を書いた時には、「高木先生」に対する皮肉かと思っていました。エイジなりの愛情表現かもしれない。つまりは、シュージンは『恋太』をイヤイヤ描いているんじゃないのか──というエイジの意見です。
今回の展開を見る限りでは、エイジの発言はそのままの意味だったらしい。シュージンが手を貸さなくても、白鳥が 1 人で『恋太』を描ける、と。
ただ、詳しい事情を知らないのに、エイジがそこまで見抜いていたとすると、ちょっと超能力(千里眼)みたいですね。たんに「シュージンには、メルヘンよりもブラックな話を描いて欲しい」と思っただけかも。
いずれにせよ、雄二郎が「(キリッ」と決めようとして、スベったことには変わらない。
アドバイスする ことはない
今回の読み切り作品は、終わってみれば、サイコーとシュージンとの合作になりました。
「完全に 1 人で仕上げること」がサイコーの目的ではないはずなので、これで良いのです。自分ひとりでネームを描いてみて、よりいっそうの力がサイコーについたはず。当初の目的どおり、シュージンも原作者としての幅を広げました。
遠回りをしているようでいて、亜城木夢叶はいつも、夢に向かってまっすぐに進んでいる。
サイコーが 1 人で描いていた時と比べて、完全に生まれ変わったネームになったはずなのに、服部は何も聞かない。2 人の事情をある程度は知っているからでしょう。わざわざ「仲直りしたのか?」などと言わない、ドライな服部がイイ感じです。
服部からも面白い
と言われたサイコーの──いや、「亜城木夢叶の読み切り」は、きっと高い人気を得ることでしょう!
