『四季 夏』
真賀田四季、13 歳の物語です。新たな出会いと別れ、誕生と喪失が描かれています。V シリーズから意外な人物が出てくるので、お楽しみに。そして、あの事件も……。
軽い男
後ほど重要になると思われる博士が出てきます。彼は、四季に対してこんな軽口をたたくのです。
「お互いに得るものがあります」四季はじっと彼を見つめる。
「私には、何が得られるのかね?」彼はきいた。
「五年、お待ちになってください。私を信じて」
「君を信じなかったら、世の中は全くの暗黒だろう」
『四季 夏』 p.89
身内の人間以外で、四季に対してこんな口調で話す人間は初めてでは。単なる怖い物知らずなのか、それとも……。まぁ、四季はレクター博士と違って、無礼な人間に罰を与えたりはしませんが、やり取りを見ていて、ちょっとドキドキ。
四季の恐ろしさ
下記の会話で、改めて四季の恐ろしさを感じました。四季がある人物におぶってもらうシーンです。
「初めて」背中で四季が言った。
「おんぶが?」
「ええ」
「赤ちゃんのときに、してもらっていますよ」
「いいえ。一度も」
「覚えていないだけです」
「私は全部覚えています」
『四季 夏』 p.134
──恐ろしい、怖ろしい……。
このシーンの前後は、V シリーズファンならニヤニヤしっぱなしの場面の連続です。とくに、ある男の自己紹介は必見。しかし、そんな中でも四季の末恐ろしさを味わいました。
愛に生きる女
森ミステリィといえば「理系ミステリィ」と称されることが多いですが、じつは、「愛に生きる女」を描いた作品が多いです。本作でも、こんな会話が出てきます。
「彼とは、うまくいっている?」四季は突然話題を変えた。
(……)「ずっとうまくいっていないし、これからも、うまくいく要素はありません」
「それは残念ね」
「うまくいくかどうかなんて、愛情とは関係がないのです」
『四季 夏』 p.174
「彼」とは誰なのか? 四季の会話の相手は誰なのか? そして、その相手はこのあとどうなるのか?
いままでのシリーズ作品を読んできた人なら、きっと驚くはず。驚かない人は、早くから彼女の本質に気がついていたか、恋愛を知らないか、そのどちらでもないか、でしょう。
そして、「愛に生きる女」は他にも何人か出てきます。そして四季も……。