『阿修羅ガール』
ちくしょー、また騙された! 舞城王太郎め!(満面の笑みを浮かべながら)。という読後感でした。
減るもんじゃねーだろとか言われたのでとりあえずやってみたらちゃんと減った。私の自尊心。
返せ。
『阿修羅ガール』 p.9
──などという、主人公の可愛らしい(?)独白から始まるので、てっきり、女子高生のほのぼの学園生活物語が始まるのかと油断していたら──背後からいきなり刺された感じ。主人公の周りで、次々と(文字通り)奇想天外な事件が起こるのでした。「先の読めない展開」という使い古された言葉が似合う一作です。
残酷な主人公
おかしな事件に巻き込まれつつも、主人公のアイコは、けっこう冷静というか冷酷、いや残酷と言ってもいい態度をとり続けるのです。そんな事件より、自分の恋に生きる、という感じ。
『ジョジョ』でいうところの 「吐き気をもよおす『邪悪』とはッ!」──主人公のことじゃないか、と。
そうかと思えば、下記のように反省(?)したりするのが、憎めないところ。
ま、私は酷い奴なんだと思う。一皮剥けば、自分のために妹でも隣の家の女の子でも殺人鬼の犠牲にさせてしまう冷酷な人間なんだと思う。
『阿修羅ガール』 p.67
──と、油断していると……(以後、繰り返し)。
筒井康隆氏が推薦
第16回三島由紀夫賞選評で、筒井康隆氏が『阿修羅ガール』を推薦しています。本作が氏の『ヘル』に雰囲気が似ている、とのこと。
とはいえ絶賛というわけではなく、下記の通り、酷評とも取れる言い方なのが、彼らしいところ。
候補作品の中では唯一、ファンタジイ、実験、笑いというわし自身が勝手に設定した現代文学の三つの条件をクリアしているので、多くの難をかかえている作品ではあったが一番に推した。難のひとつはあまり面白くないことで、エンターテインメントとしてはさらに面白くないことになるが、ホラーとしてはなかなか怖い部分もあり、文学としては新鮮に思えた。
まぁ、舞城王太郎作品は、ラストまで一気に読ませるだけの勢いが売り、だと思います。彼がきっちりと計算された、すべての伏線を回収する、「起承転結」な話を書いたら、ちょっとがっかりだ、というのは言い過ぎですかね。
『川を泳いで渡る蛇』
『阿修羅ガール』の他に、短篇が収録されています。こちらは、いままで読んだ作品とはかなり異なった雰囲気です。
一言でまとめるとすると、「ちょっと口の悪い村上春樹」、みたいな。こういった作品も書ける作家なのか、と見直しました(偉そう)。
2001 年にデビューして、自分と一歳違い(1973 年生まれとのこと)。まだまだこれから先も、舞城作品に騙され続けたいです。