HUNTER×HUNTER No.281『神速』 (週刊少年ジャンプ 2008 年 45 号)
前回から待つこと半年以上──ようやく連載が再開された。またも「10 週連続掲載」だ。少なくとも 10 回は続くことが保証され、安心した。
「ガッシ!ボカッ!」ゴンたちは死んだ。スイーツ(笑)──みたいな展開にはならないようだ(当たり前)。
やったー携帯小説できたよー(^o^)ノ:アルファルファモザイク
今週のジャンプは表紙が『ハンター』だ。連載のほうも、センターカラーに「これまでのあらすじ」まで付いていて、至れり尽くせりになっている。ただ、かなり複雑な局面なので、事前にコミックを参照しておきたい。
『HUNTER×HUNTER(ハンター×ハンター)』 No.26 感想 : 亜細亜ノ蛾
今回の話は、戦闘がメインだ。そのため、3 分もあれば読み終わるだろう。しかし、書きたいことが山ほどある。感想を書いていて、止まらないのだ。長くなったので、週刊連載のマンガ感想にしては珍しく、前後編に分けた。
今回は、モントゥトゥユピーについて掘り下げてみる。
成長するユピー
初登場のころから比べ、ユピーは明らかに変わった。
おそらく、宮殿での戦闘が始まるまでは、作者の中でもユピーは「単純バカ」のキャラだったはず。それが、いつの間にか自身をコントロールする術(すべ)を身につけた。敵を客観的に見て、その能力を見抜くことにも長けている。たぐいまれな戦闘本能のたまもの──と納得できるし、深みが増した。
戦闘中に急成長するのは、主人公チームだけではないのだ。このあたりも、ほかの作品とは一線を画す。
ユピーの疑問
さて、それにしても「宮殿内に突然現われた」ことと「自由に出たり消えたり出来る」こととは、ユピーの中で混同していないのだろうか。前者はノヴの「4次元マンション(ハイドアンドシーク)」、後者はメレオロンの「神の共犯者(かみのきょうはんしゃ)」だ。
HUNTER×HUNTERの能力・技 – Wikipedia
いまのところユピーは、消える能力者を「少なくとも一匹」と考えている。ナックルとキルアが、それぞれ別に出てきたからだと思う。「一度に大勢を消せるのであれば、もっと複数人で襲ってくるはずだ」と考えたのだろう。──そうすると、宮殿へ突入してきた人間が多いことと矛盾するような……。
「生きている」キャラクタ
並のマンガであれば、読者が正解を知っていることを、わざわざそれ以上は書かない。それに対してこの作品では、読者が知っていることでも、キャラクタたちは自分の頭で判断する。あまりにも疑り深すぎて、けっきょく攻めきれなかったウェルフィン、という描写は非常に面白かった。
そして、じつは、ウェルフィンもユピーも考えなしに攻めていれば、主人公側はピンチだったかもしれない──というところも興味深い。ウェルフィンがあのエレベータで階下へ降りていれば、彼の嗅覚なら(フラッタではなく)イカルゴを見つけられただろう。ユピーが真相に気付いた場面で「爆発」すれば、キルアはともかくメレオロンは巻き込まれたはずだ。
常識を疑え
自分は、こういった「作中で過去に起こったことをひっくり返す」表現が好きだ。マンガでも小説でも。
たいていの読者は、書かれたことを疑わない。作品内の「常識」として処理する。作中だけに通用する「法則」や「仕様」と思うわけだ。それを、作者が──書いた本人が「本当に?」と読者に訴えかける。一段高いところから登場人物を眺めていた読者が、さらに上にいる存在──神たる作者の力を思い知る瞬間だ。キャラと同様に読者は動揺する。
『美味しんぼ』の例
『美味しんぼ (29) (ビッグコミックス)』で初登場の、団という人物がいる。彼は、「究極のメニュー」には弱点があると言う。「至高のメニュー」との対決で「究極」側が勝った料理に、不満が残るとも言うのだ。それは豆腐を題材にした料理で、『美味しんぼ (22) (ビッグコミックス)』に収録されている。
豆腐対決の回は、読み応えがあって好きな話だ。なぜ「究極」側が勝てたのか。その理由には人情味があふれている。海原雄山が山岡士郎に対して親心を見せた──ように思えるのだ。
その味わい深い対決の結果に対して、あえて批判を唱える人物を出す。作者の人物描写の多様さを感じるエピソードだった。
『美味しんぼ』を「対決ばかりしている」とか「毎回同じ展開」などという人は多い。じつは、そういう人はマンネリ作品が好きなのだ。人間、好きなものだけを見る傾向がある。
『可愛い写真を撮るには』 / 目と脳で見た物が違う : 亜細亜ノ蛾
試しに、上記のような発言を繰り返す人に、好きな作品を聞いてみよう。いくつか「毎回同じ展開」の作品を教えてくれるはずだ。
まとめ
今後、ユピーが「信じがたい選択」をすることを予告された。つまりは、「生存フラグ」が付いたのだ。これは意外だった。「まだ後の事」が数分後か数か月後かは分からないが……。
冷酷非情で残虐な蟻。倒すべき敵。悪魔。──王と護衛軍は、そういった存在だったはずだ。それなのに、いまではキメラアントたちも生き延びて欲しい気持ちが強い。
王も護衛軍も、そして討伐隊も全員生き残る──そんな魔法のような結末もあり得るのだろうか?