HUNTER×HUNTER #282『密室』 飛ぶブロヴーダだ

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HUNTER×HUNTER No.282『密室』 (週刊少年ジャンプ 2008 年 46 号)

一話の感想を複数回に分けて書く。──マンガの感想書きの間で賛否両論(大げさ)のシステムを取り入れてから、非常に記事が書きやすくなった。

その分、同じ話を何度も読み返すことになり、苦痛だ──ということは全然ない。より深く作品に触れられる。とはいえ、自分は昔から、毎日のようにジャンプを読み直している。ちょっとしたスキマ時間──ウェブページの読み込みが遅いときなどにも、ジャンプを見ている。

それでも、読み落としている部分も多い。マンガの情報量の多さには、いまだに驚かされる。作者が何日も掛けて描いた作品を、数分ですべて読み解けるはずがないのだ。少なくとも自分は、そう言った心構えで作品に接している。

さて、イカルゴとブロヴーダがお互い離れたまま戦う──トリッキィな回の、後半はどうなったのだろうか。感想の続きを書く。

ところで、「飛ばねぇブロヴーダはただのブロヴーダ(ザリガニ)だ」と幻聴が聞こえたが、気のせいだろうか。

ポルコは「飛べない豚はただの豚だ」なんてこといわない : 亜細亜ノ蛾

決断をもう一度

ブロウがエレベータから脱出した。ふたたび、イカルゴは決断を迫られる。

昨日も書いたけど、このシーン──イカルゴが自分自身を甘いと責める描写を、わざわざ描く意味が分からない人も多いのでは。

HUNTER×HUNTER No.282『密室』 決心するイカルゴ : 亜細亜ノ蛾

「冨樫なら」この辺りで気の利いたバトルを見せてくれるだろう──。「マンガとして」敵を見過ごす選択はしないだろう──。そうやって、予定調和の一環と見てしまうと、けっしてイカルゴの決意の強さが理解できない。そうすると、今回の話の面白さは半減する。

そう言いながら、「初めて潜入したモニタ室で自由自在に機器を操るタコ(ってゆうなーーー!)」の姿は、シュールで笑えてくる。

元ネタ探し

いまさらながら気が付いたのは──イカルゴって『ゴルゴ 13』が元ネタなのか。「イカ +ゴルゴ」ね。なるほど。今の今まで「この太い眉毛、どっかで見たことあるんだけどなぁ……」と思いながら、ゴルゴに結びつけられなかった自分だ。眉毛が太い人なら、ナックルやクラフト隊長(レベルE – Wikipedia)もいたから。

──上の段落は、「イカルゴのモチーフがゴルゴであることに気付かなかったのは、マンガ読みとしていかがなものか」といった焦りから出た言い訳である。自分は、それほど多くの作品を読んでいないので、こういった「元ネタ探し」は本当に苦手だ。作者が面白いと思って仕掛けたネタも、たぶん、かなりの量をスルーしているだろう。それでも面白さが損なわれない、本作のような作品に出会えて良かった。

飛ぶザリガニ

作戦の変更を余儀なくされたイカルゴは、ブロウの恐ろしさを知る。

ブロウは、見た目から鈍重そうなイメージを持っている。実際、素早く動くブロウの描写はなかった。──いままでは。

初めて見せたブロウの「技」は、彼の戦い方に思った以上の幅があることを感じさせる。単純な技だが、簡単(シンプル)なヤツほど強い(『ジョジョの奇妙な冒険 (20) (ジャンプ・コミックス)』 p.43)。

このとき、イカルゴは逃げ道があることに気が付いた。──それは、どこだろう? この場所を初めて訪れた者でも思い付くくらいだから、地下の施設なら必ずある設備──通気口などだろうか。ご丁寧なことに、モニタ室の周辺を図解しているくらいだから、読者でも分かるような逃げ道かもしれない。

このブログ名物の「当たらない予想」を書く:

映画でよく見るように「エレベータの天井から脱出する」のではないか。もちろん、催涙ガスを投入するような装置がある以上、天井に脱出口は存在しないかロックされているだろう。しかし、防弾扉を破壊できるブロウなら、エレベータの天井くらいは簡単に破れるはず。

脱出方法を考えた直前に、ブロウがひとりボケ・ツッコミをしているのが面白い。人間だったころから、彼は楽しいヤツだったんだろう。

装甲車と最善の策

最後に出てきた装甲車のトリックは、正直、よく分からなかった。

イカルゴがモニタ室に置いてある物を集めている。この内のどれかを使って、最善の策を施したようだ。その策とは何か?

リモコン類もガムテープも怪しい。ライタと酒(薬品?)も、爆薬と組み合わせれば、時間差で攻撃できる爆弾を作れる。単体では意味がなさそうな AC アダプタが、妙に面積を取っていて気になる……。

ラストシーンで「イカルゴがどこにいるのか」がハッキリしないことも、トラップのニオイがプンプンする。単純に「装甲車で迎え撃つイカルゴ」と読んでいいのか。次回で、作者が仕掛けたワナにはまっていたことが分かり、「チクショウ! またやられた !!」(ニコニコ笑顔で)となるに違いない。

まとめ

何回でも書くけれど、キルアとの初戦での印象が強いから、イカルゴに手を汚した経験がないのは、ちょっと信じがたい。おそらく、イカルゴは途中で「ダチ(友だち)や仲間と一緒に成長するキャラ」に路線を変更したのだろう。作者自身も、初期の設定からは今のイカルゴは想像できなかった──と思う。そんなことは、いままでも山ほどあったのでは。

そこまで深く考えず、キャラ萌えと謎解きだけを求める人は、この作品を楽しめない。──とは断言できず、それだけでも十分に面白いのが『ハンター』のすごい所だよなぁ。

コメント

  1. coule より:

    イカルゴが手を汚した経験がない可能性はあると思います。
    メレオロンも多分そうだと思います。
    戦闘力が低いのもあるけど、部下が好戦的であり
    また、食料は生きたまま肉団子にされる。
    あと、ノミ弾は相手の体力を減らすのが目的だったと思います。
    それと単純に、自分の手を汚すまでもなく、仲間が殺してるんだと思います。
    キメラアント側の仲間の定義は、従順な関係だと思うけど
    イカルゴが仲間は売らないと言っていたのは、
    イカルゴは仲間だと思っている(思いたい)願望が
    キルアにあって初めて仲間(友達)を意識できたんだと思います。
    フラッタにキルアがヨーヨーを使っていることを教えなかったのも
    イカルゴが求めていた世界(友達)だと強く感じたからだと思います。

  2. 永空 より:

    イカルゴは、接近戦ではキルアに即効負ける弱さですし、
    念能力「フリーダム」も血が止まらないようにする蚤を飛ばすというもので、
    すぐに相手を死に至らしめるものではないため、
    攻撃補助、もしくは誘い出しを専門としていたと思うんですね。
    だから、一対一で戦って、直接的に相手を殺すというのが、
    彼にとって初めてで、そういう意味で自ら手を汚したことがないと言っているのだと思います。
    イカルゴの決意や戦いをわざわざ描いているのは、
    今、微妙な関係であるゴンとキルアの離別が決定的になったときの
    キルアの新しいパートナーにするためじゃないかと勘ぐったりしてしまいますねぇ。
    イカルゴやプロヴーダ同様、親衛隊と比べかなりランクが落ちるウェルフェンの葛藤を
    描いたりするのも、蟻討伐全体の戦況に関わることなのか、
    それとも蟻編以降の話を見越してのことなのか非常に気になりますね。

  3. asiamoth より:

    うおお、熱いぜ。熱いコメントが付いたぜ! ──と叫びたくなるコメントですね。coule さん、永空さん、ありがとうございます。
    ここで、「手を汚した経験」がないイカルゴの、真実を詠んだ一句:
    ──「手を汚す」ことなく就いた兵隊長 血に染まるのはイカルゴの「足」
    人をガッカリさせるスキルだけは、異常に長けている自分です……。
    イカルゴとキルアの仲間意識も、キメラアント編以降の展開も、(たぶん)いつかは描かれることを思うと、待ち遠しいですね。しかし、どうやって今の展開を終わらせるのだろう……。「スーパーゴンマン アルティメイタム」の登場か?