『バクマン。』 38 ページ 「窓と雪」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 26 号)
アシスタントの加藤は、この作品では貴重な「普通の女性」である。
亜豆のいない間に、あれよあれよと『バクマン。』界のヒロインへと上り詰める──と思われた加藤だが、そんな気配は ないようである。ほとんど「連載にはアシスタントが必要」という説明のためだけに登場したのようだ。
加藤は意外と、奥が深そうな女性に見えるのだが……。
ふと思った。「加藤のコスプレ」をするコスプレイヤは存在するだろうか。──本人が意図しないまま、イベントの行き・帰りで そうなっている人は多そうだが(禁句?)。
そうやって加藤を見ていると、なんとなく『げんしけん』の大野さんを思い出す。二人は あまり似ていないのだが、根っこの部分から同じニオイがする。
加藤も「何とかが嫌いな女子なんていません!」と思っているのかもしれない……(何とかとは?)。
やめません!
中井の決意は固い。たとえ蒼樹に何を言われても、やめる気はないのだ。
初登場の時に福田からヒドいことを言われても、中井は じっと黙っていた。あの頃の何もかも あきらめ顔の中井は、もういない。
蒼樹に対して自分の決意をぶつける中井は、ハッキリ言って暑苦しい──が、ちょっとこの顔のことを覚えておこう。すぐ下で書く。
福田とエイジとの会話が、じつに味わい深い。
単純明快なやり取りを好む福田からすると、中井の行動は理解できないのだろう。ついつい、長々と語っている。ただ、初めて登場した際のトゲやイヤミはない。純粋に中井のことを心配しているのだ。
「福田組」の仲間として、男同士として、福田は中井のことを思いやっている。
その福田の言葉に対して、エイジが応えた言葉は、たった一言だ。あとから分かることだが、そのエイジの言葉は本質を突いている。
エイジには、何もかもお見通しなのだろうか?
こえーよ 中井さん
中井は蒼樹を恋愛の対象として見ている──と福田は思っているのだろう。この時点では、読者もそう思ったはずだ。自分も同じだった。
だからこそ、中井の執着心には気味の悪さを感じる。
後半を読むと印象が変わるのだが、この場面では中井を見て「引く」人も多いだろう。相変わらず、印象の操作がウマい作者である。
さて、仕事場から出て行く中井を見てみよう。よく見ると、いつものようにヒゲが生えている。蒼樹の住んでいるマンションから仕事場に来た時には、口ひげがない。
ようするに、蒼樹に会うために中井はヒゲを剃ったのだ。「直接は会えない」と分かっていつつも、ちゃんと身だしなみを整えて行った。
──男という生きものは、誰からも評価されない努力を積み重ねて生きているのである。
このあとにエイジが言ったセリフがスゴい。
福田の「何 考えてんだ
」という言葉を受けて、すぐさま「きっと マンガのこと です
」と返す。これは なかなか出てこない。
もしも、中井を動かしている原動力が恋心だけだったら、エイジは彼を無視するだろう。もちろん、恋愛感情もあるはずだ。しかし、蒼樹と一緒に より良いマンガを描きたい、という中井の思いのみをエイジは見ている。
エイジは、どこまでもマンガに対することにしか興味がない。
だからこそ、エイジがたまに見せる人間味が引き立つ。本当にいいキャラクタだ。
このペースなら 余裕です
シュージンと見吉との会話は、まるで夫婦のようである。またはキョウダイみたいな感じ。家族の一員といったところか。
つきあい始めて 1 年くらいの高校生カップルにしては、初々しさがない気もする。実際の高校生も、こんな感じなのか?
まぁ、あまり見吉の恋愛観を掘り下げることはない、と読めてしまうところが、すこし悲しい。いつまでも幸せでいて欲しいものだ。
もう 3 日も
中井の様子が気になるサイコーへ、福田は「現地からレポート」する。──どう考えても、中井から丸わかりのように見えるが……。
いつもより、福田の口調が ぶっきらぼうに聞こえる。きっと、ムダな努力を続けてる中井に対して、いらだっているのだ。自分には何もできない、という もどかしさも感じているはず。
福田は、面倒くさがり屋のような話し方なのに、じつに面倒見がいい。頼れる兄貴タイプで、モテそうだ。
自分はその逆で「優しそうに見えるが、超が 64 個くらい付く面倒くさがり」である。しかも優しいのではなく、弱々しいだけだ。メンドウなことをさけるために、日々の努力を重ねている。
やめてください
自室でカップを持つ蒼樹は、それだけで「絵になる」。いつもどおり、おしゃれな格好だ。それと、やはりミニスカートが好きなようである。
蒼樹の人生には、「だらける」という単語がないのだろう。
そういえば、蒼樹が大学へ行ったり働いたりしている描写がない。この作品にはムダなコマなので、カットされているのだろうが、マンガから離れた蒼樹も見てみたいものだ。
蒼樹は意外と、大学では活発にスポーツ系のサークル活動に参加していたり、毎週のように合コンに出ていたり、はたまた BL 系の同人誌界ではトップクラスの大御所だったり──は、ないだろうなぁ……。
寒空の中でマンガを描き続ける中井を見て、ついに蒼樹から電話をかけるが──。