『デクスター ~警察官は殺人鬼』 シーズン 4(Dexter (season 4))
『デクスター』のシーズン「4」は、日本では「死」を連想させて忌み嫌われる番号です。ところが赤ちゃんが写っているパッケージはコミカルで、むしろ「誕生」を思わせるのですが──、
今シーズンのテーマは「別れ」でした。
思いもかけないタイミングで、いろんな人たちが このドラマの世界から去っていきます。「この人だけは、このまま幸せになって欲しい」──なんて祈りたくなる人物ほど危ない。
そしてシーズンの最後は誰もが驚きます!
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Reviewer: あじもす @asiamoth,
父親よりも父親らしく
デクスター・モーガン(マイケル・C・ホール)とリタ(ジュリー・ベンツ)との結婚に驚かされたのは前シーズンのことで、今シーズンで 2 人の間の子ども・ハリソンが生まれています。
あのデクスターが父親になるとは……!
「感情がない」ことが特徴だったシーズン 1 のデックスからは考えられませんね。まぁ、感情や器量や思想がなくても、父親になっている人は山ほど居ますが。
これだけの一大イベントがあったのだから、シーズン 4 の中心はハリソンになる──かと思っていたのに、あまり子どもとの交流は描かれていません。「ファミリィ・ドラマ」ではないので、当然と言えます。
ただし、反抗期のアスター(クリスティーナ・ロビンソン)をなだめたり、コーディー(ダニエル・ゴールドマン)とキャンプへ行ったり、デクスターの家族サービスは見られました。キャンプの場合は殺人絡みで彼らしい。
すくなくとも、デックスの父親であるハリー・モーガン(ジェームズ・レマー)よりは、真っ当な子育てをしていますね。これもリタのおかげです。
アスターとコーディは育ち盛りなので、「いつの間にか身長が 2m を越していた!」と なりそうで不安でした。むしろデクスター役のマイケルのほうが、シーズン 1 よりも年齢を感じます。
幸せな時ほど短く
デボラ・モーガンを演じたジェニファー・カーペンターの演技が良かった! 自分は演技の良し悪しが あまり分からないけれど、彼女が演じている姿は輝いて見えます。
とくに退院した直後のデボラが、痛々しくて見ていられない──けれど目が離せない好演でした。「あの駐車場」でデックスに泣きつく場面も最高です!
シーズン 3 でデボラが付き合い始めたアントン・ブリッジス(デヴィッド・ラムゼイ)は、(また)一時の遊びで終わる──と予想したけれど、シーズンをまたいで関係が続いていましたね。
このままアニキと同様にデボラも結婚するのか──とならないところが この作品らしい。この世界では、幸福が連鎖することはないのです。
デボラとアントンとは、なんとなく「犬と猫」のように感じました。デボラの顔は犬っぽくてアントンは猫みたい──という意味ではなく(本当に?)、「ずっと一緒に生活すると問題が起きやすい関係」です。
2 人とも恋の行く末に不安を感じているなかで──、フランク・ランディ(キース・キャラダイン)の再登場に驚きました! デボラは もっと面食らっています。
でも、デボラの あわてぶりが「焼けぼっくいに何とやら」丸出しで、なんとも かわいらしい。ランディのほうは まだ自制心が強かったけれど、デボラの熱意に押された感じでしたね。
もしもランディがデボラと結ばれていたら、シーズン 2 で解決したと思われた「ベイハーバー・ブッチャー事件」の真相──デクスターの正体を探り始めたかもしれません。そのほうがスリリングで面白かったなー。
恋は危険な火遊び
エンジェル・バティスタ(デヴィッド・ザヤス)とマリア・ラゲルタ(ローレン・ベレス)は、ことあるごとに恋愛の対象が変わっていきます。そして、そのたびに誰かが不幸になる──という「ラブ・テロリスト」でもある(用法が違う?)。
さて今シーズンでは──なんと、2 人が付き合うことになりました! これは危険な香りしかしない!
──いや、「危険なほうが恋愛は燃える(ドヤッ」とか そういう意味ではなく、リアルに不幸の連鎖が起こる構図しか思い描けません。そして そのとおり、2 人の周りには屍体の山ができあがっている。
シーズン 2 では「女の武器」を賢く使っていたマリアも、シーズン 4 ではスキが大きすぎます。本気の恋愛だから──というよりも、女遊びにルーズなエンジェルに引きずられた可能性が高い。
プライベートの酒屋でイチャついていたところを、監視カメラの映像で見せつけられる──というのは防ぎようがありません。しかし、勤務中(だったよね?)にビーチで抱き合うなんて、2 人とも大胆すぎます。
そう言えば忘れかけていたけれど、シーズン 1 でマリアは、デックスに色目を使っていたよなぁ……。リタと出会う前のデックスだったら、マリアを隠れ蓑に使う手を考えたかも。
ペンは銃よりも強し
クリスティーナ・ヒル(コートニー・フォード)は、今シーズンの お色気要因です! 新登場の人物のヌー■が新鮮でした(ごくり……)。
これは お茶の間では見られませんね!(殺人は?)
レギュラ陣がセクシィ担当をひととおり演じ終わった(※)から、こうやって新キャラに色っぽく演じさせるのでしょうかね。けしからんですなー(棒)。
※: ヴィンス・マスオカ(C・S・リー)を除く
ジョーイ・クイン(デズモンド・ハリントン)がクリスティーナの お相手です。彼はハンサムなのに汚れ役が多くて、さらにデクスターのことも嫌っている。──なんだか「死亡フラグ」が立ちまくっています……。
クリスが新聞記者という時点で、クインに近づいてきた理由は明白でした。クインも十分に承知した上で遊んでいたようだけれど、彼女のほうが何枚も上を行っている。
記者としてクリスはデボラにも接触していました。男性社会で生きている点や、父親への依存の強さなど、この 2 人は似ているところが多い。もっと出会い方が良ければ、本当の友だちに なれたのかもな……。
シーズン 4 では、「女性陣には仲間が すくない」と強く感じました。男性陣も それほど密な関係はないけれど、とくに女性たちは孤独に見える。その孤独感が、「リタと隣人とのアレ」へと発展したのでしょう。
二重・三重の仮面
3 連続殺人を犯し続けている「トリニティ・キラー」ことアーサー・ミッチェル(ジョン・リスゴー)は、シーズン 3 のミゲル・プラド(ジミー・スミッツ)と同様に、最初は まったく魅力を感じなかった。
何と言っても──おじいちゃんですからね。
何十年も逃げ生してきた殺人鬼のわりには、比較的アッサリとアーサーはデクスターに見つかっている。その点も興ざめなのですが──、アーサーの自宅が開かされた あたりから印象が一変しました! アレはビックリしたなー。
ミゲルの時には「仲間ができた」と感じたデックスは、アーサーには「彼から学ぼう」と考えている。「大っぴらに打ち明けられない趣味」を持っている同士だから、この点は苦労しますね!
おそらく意図的な演技だと思いますが、アーサーは──気持ちが悪い! 普段は善人を演じているのに、殺人の時にはデクスター以上に冷酷になる。そうかと思えば、街なかでも家庭でも暴力的だったりします。
現実世界でも見るからに悪いヤツ──ヤクザやチンピラなどは、「関わらないでおこう」と避けられる。ところがアーサーみたいな「善良な市民」は、警戒しようがないのです。そこが不気味で恐ろしい。
DVD 特典
デクスターを演じるマイケル・C・ホールと、トリニティ・キラー役のジョン・リスゴーの両者が、DVD の特典で対談しています。
まず、マイケルの容姿にビックリしました! 劇中は──アレだったのか……。
トークは終始ジョンがリードしていて、マイケルは ずっと下を向いている。「仲が悪いのか?」と思ったくらい。たまに 2 人で爆笑しているから、それほど険悪なムードではありません。普段のマイケルは照れ屋なんでしょうかね?
日本語訳の関係なのか本当に言っているのか、ジョンは自分のことを「温厚そうで優秀な役者」みたいに客観的な意見を述べている。たしかに そのとおりだけれど、真顔でたんたんと語られると──ちょっと苦笑します。
衝撃的な最後の場面はトップ・シークレットだったらしく、直前までは役者ですら「ウソの脚本」を渡されていた。最近は何かと「流出」が多いですからね……。
すべてがリセットされてしまったような最後の一幕を通過して、デクスター・モーガンは どこへ行くのか。シーズン 5 も楽しみです!
おわりに: 弱まる掟
デクスターの「闇の声」を抑えるための殺人は、回を追うごとに減っています。より正確に言うと、劇中では描かれなくなっている。だからなんとなく、「正義の殺人者」という印象を強くするのかと思ったら──。
シーズン 3 に引き続き、「うっかり殺人犯以外もヤっちゃいました(てへぺろ☆」なシーンが出てきました。これにはガッカリです。
「デクスターも人間だから、間違うこともある」と描きたかったのかな。彼が人間味を帯びてきたことで、殺人者としての勘が鈍ったのかもしれません。
しかし、脚本の力が弱いと感じました。
たとえば、シーズン 2 のジェームズ・ドークス(エリック・キング)も、「ハリーの掟」に従っていたら いまだに監禁していたはずです。そこを外部の人間の力で──つまりは脚本の描き方しだいで、デクスター以外の手を汚すこともできる。
できればデクスターには、あくまでも「法で裁けない殺人鬼」だけをターゲットにして欲しい。それよりなにより、ハリー(の幻)自体も、「秘密を探る者は容赦なく殺せ!」みたいに凶暴さを増している。
やっぱり前シーズンで心配したように、これから どんどんとハリーの──いや「デクスターの掟」は、基準が甘くなっていくのでは……。
余談
今回もタイトルはゲーテから借りました。また返そう。
女性を力強く守ることのできる者だけが、女性の愛願を得るに値する。
ちなみに──、どのサイトを見ても「愛願
」となっていますが、おそらく表記の間違いでしょうね。
タイトルの「彼女」とは、リタのことであり・デボラ・マリア・クリスのことでもある。「女性は守るべき存在」なんて、男女平等の現代(本当に?)では古い考えかもしれません。しかし、身体的な差は歴然としている。
このドラマが終わった時に、誰が 1 番幸せになれるのだろう。もうすでに不可能な人たちも入っているけれど──。