『ドラゴン・タトゥーの女』 (The Girl with the Dragon Tattoo)
ドラゴンは飛び去っても──代わりがいる
タイトルから想像できるように、ブルース・リーの幻の遺作をリメイクしたアクション映画です! 監督はクエンティン・タランティーノで、お得意の多弁すぎるトークと、残虐すぎるバイオレンスが見どころでした。
しがない探偵の元へ、謎の女が仕事を依頼しに来る。彼女に刻まれたタトゥ──そこに隠された秘宝の謎とは? やがて襲い来る悪の組織との闘い! 国中を巻き込んだ紛争の末に、衝撃の結末が! それは──、
──ここまでの話は全部ウソでした!
本当は、自分が大好きなデヴィッド・フィンチャー監督の映画です。彼の作品のなかで一番ふんいきが近いのは、『セブン』や『ゾディアック』でしょう。間違っても『ベンジャミン・バトン』のように ほのぼの路線ではありません。
自分は まったく内容を知らずに劇場へ足へ運んで、「ダニエル・クレイグが主演だし、お気楽なスタイリッシュ・アクション映画だろう」──とノンキに観ていたから、いろんな場面でアゴが外れそうになりました。
ストーリィは「40 年前に失踪した少女の真相を暴く」というミステリィ的な内容ですが、じつは主題は そこにはありません。
この映画の大半は、ヒロインを演じるルーニー・マーラが かわいい! ──という成分で構成されています。だから いっそう、アレな場面で息苦しくなる……。
これから『ドラゴン・タトゥーの女』を観る人は、あまり情報を仕入れずに劇場で観てください。とくに女性の方は、信頼できるパートナと一緒に行きましょう。
映画が終わったあとで「誰と一緒に観たかったか」を考えると、ちょっとした「人生の棚卸し」というか友だち選びの手助けになるかも。
Reviewer: あじもす @asiamoth,
猟奇的すぎる彼女
リスベット・サランデルは、タイトルにもなっているドラゴンのタトゥーを入れているヒロインです。傷つきやすくも凶悪なリスベットを、ルーニー・マーラが完全に演じきりました。
彼女の演技だけでも見る価値がある!
ルーニー・マーラであれば、自分の座右の書・『銃夢』の主人公であるガリィも演じられるはずです。リスベットもガリィも、少女の多感さと野獣の凶暴さを合わせ持っている。
劇中で語られるリスベットの年齢ですら「え、そんなに上?」と思ったけれど、Wikipedia に載っているルーニーの写真は もっと幼く見える! 10 歳くらいサバを読めますよね。
──でも、てっきり「全身に刺青だらけ!」とか、最低でも「背中一面に龍の紋々!」(もんもん)があると思っていました。「ちょっとオシャレにドラゴンちゃん入れちゃいました(てへぺろ☆」という感じだったなぁ。
ただし、「体にタトゥを入れる」という痛みは、存分に味わえました……。オシャレ感覚でハードな世界に入門したい かわいこちゃんは、まず本作品を観たほうが良いですね。それからでも遅くない。
カジノの二の舞い
『ドラえもん』の主人公は、のび太です。──という文脈からすると、『ドラゴン・タトゥーの女』の主人公はミカエル・ブルムクヴィストでしょう。それくらい、ヒロインに食われていましたね。二重の意味で(お下品!)。
ミカエル役のダニエル・クレイグは、良くも悪くも「いつもどおりの演技」を見せてくれました。安定しているけれど、そこには驚きがない。
今回の探偵役は、ジェームズ・ボンド(007)のような強い男ではなく、『レイヤー・ケーキ』の主人公に近い。ただ、『カジノ・ロワイヤル』を思わせる場面は ありましたが……。
- 『レイヤー・ケーキ』 007 は遠すぎる | 亜細亜ノ蛾
- 『007 カジノ・ロワイヤル』 新生ジェームズ・ボンドに違和感 | 亜細亜ノ蛾
- 007 慰めの報酬 – 復讐を求めるのは死者ではない | 亜細亜ノ蛾
クレイグの私生活からすると、「女性は大の苦手です!」──というタイプでは ありませんよね。今回の映画でも「役得!」などと思っていたりして。うらやましい!
探偵の相棒と言えば犬が定番です。ところが『ドラゴン・タトゥーの女』では、かわいらしい猫が出てきました。彼(彼女?)が画面に出てくると、自分だけではなくミカエルも顔がゆるんでいる。それだけに──、
猫好きにはタマラナイ場面が後半に出てきます……。
あの「コテージの外に置かれたモノ」の場面は、リスベットの行動に不快感を抱いた人は居ませんか? あれは証拠として記録に残す意味と、犯行の手口から犯人を割り出す目的があった──と思います。
しかし説明不足で、あまりにも たんたんと「プロとしての仕事」をこなす彼女が冷たく見える。そこが狙いなのかもしれませんね。
あと、ヘンリックのように自分は豪邸に住みながら、遠方から わざわざ呼んだ客を寒々としたコテージに住まわせるような薄情者ばかりの島で、どうして猫がまるまると太っていたのか──。そこが最大のミステリィです!
偉人の歌
音楽の担当に大好きなトレント・レズナーが入っていて うれしかった。彼とカレン・O が手がけたオープニングの曲と、なまめかしい映像がエクセレントです!
The GIrl With the Dragon Tattoo Opening Title Sequence – David Fincher Movie (2011) HD – YouTube
この曲は、レッド・ツェッペリンが歌った『移民の歌』のカヴァです。70 年代にしては前衛的な曲ですね。今回のカヴァは、正直「『マトリックス』っぽい」と思った。
Immigrant Song – Led Zeppelin – YouTube
文字どおり「弁護士のくず」
リスベットの後見人──の風上にも置けないニルス・ビュルマン弁護士を演じたヨリック・ヴァン・ヴァーヘニンゲン(すごい名前)も良かった。
いや、もちろんニルス弁護士に対しては、「よくもオレのリスベットたんをーーーッ!」という感情が 98 割ですよ。しかし、そう思わせるヨリックの演技が素晴らしい。エレベータで涙ぐむ場面が一番好きで、なぜか同情しそうになった。
いま彼の名前・Yorick van Wageningen を Google イメージ検索で探すと、けっこうハンサムに見えるプロフィール画像が目立つ。でも、DVD が出るころには「あの場面」で埋め尽くされるのだろうなぁ──と今からワクテカしています。
正直者ノオト
ニルスの配役を見て確信したのですが、デヴィッド・フィンチャー監督はミステリィには向いていない。サスペンス(ドキドキハラハラ)は一流だけれど、ミステリィ(犯人は誰だ?)は苦手だと思う。
なぜなら、一目で犯人が丸わかりです!
依頼人のヘンリック・ヴァンゲル(クリストファー・プラマー)を始めとして、ディルク・フルーデ弁護士(スティーヴン・バーコフ)やマルティン・ヴァンゲル(ステラン・スカルスガルド)やアニタ・ヴァンゲル(ジョエリー・リチャードソン)──と怪しい人物が次々に出てくる。
しかし、ハリエット・ヴァンゲル(モア・ガーペンダル)の「殺害事件」に関わった犯人は、初登場のシーンからして怪しすぎました。照明の加減で、どう見ても悪人にしか見えない。あれは失敗だったと思う。
デヴィッド・フィンチャー監督は、配役が正直すぎる。
『セブン』が最高に面白い理由も、犯人捜しではないですからね。個人的には好きになれなかった『ゾディアック』も、じつに「分かりやすい犯人」を持ってきていた。
ドラゴン・オブ・ザ・リング?
下のサイトを見つけて、「早くも続編の予告編が!」──と勘違いしました。同じ人が 1 人や 2 人や 1,024 万人はいるに違いない。
映画「ミレニアム 2 火と戯れる女/ 3 眠れる女と狂卓の騎士」オフィシャルサイト
本映画は『ミレニアム 1 ドラゴン・タトゥーの女』という小説が原作です。3 部作の 1 作目だったのですね。──タイトルだけを見ると、どう考えてもファンタジィ作品だよなぁ……。そこが伏線なのでしょうか。
『ミレニアム』 3 部作は先にスウェーデンで映画化されていて、ヒロインであるリスベット役のノオミ・ラパスは演技を絶賛されたそうです。今回の映画はアメリカ版のリメイクでした。これは ぜひとも見比べたい!
Wikipedia によると、クレイグは2010年7月に3部作全てでブルムクヴィスト役を演じる契約を結んだ
とのこと。リスベットもルーニー・マーラに続けて演じて欲しい!
余談
今回のサブタイトルも、ゲーテからの借り物です。下の名言を逆に裏返しました。
高尚なる男性は、女性の忠告によっていっそう高尚になる。
「愚かな男は女性への忠告で さらに愚かになる」──としたかったのですが、(この映画のように)長すぎる。それに、ニルスにしか当てはまらない。犯人にも、リスベットに忠告や■■して欲しかった──とかは思っていませんよ。
ミカエルに冷酷な説教をたれる犯人が面白かった! 『セブン』でも平常心で語る犯人が良かったし、この「悪人かく語りき」は「フィンチャー節」(ぶし)として定番化して欲しいです。
おわりに
リスベットがミカエルにゼロ距離まで急接近! する場面は唐突すぎて、彼女が彼のどこを気に入ったのかが、最初は分かりませんでした。愛人を作っているし。
ただミカエルは、すくなくとも女性に暴力を振るう男ではない。それに、娘のペニラ(ジョセフィン・スプランド)を大事にしている。彼の紳士的な態度を見て、リスベットは彼を好きになったのでしょうね。
だからこそ、最後の場面が悲しい……。
「金と権力を持った男はロクな事をしない」──これが本作品の一貫したテーマでした。最後の最後に「金を手に入れたロクでもない男」が 1 人増えるところが、なんとも皮肉で切ない……。
そう、「ハリエット事件」の解決後は蛇足とも感じたのですが、この切なさを描くための場面でした。あのラストは「それは ないわー ミカエルないわー」ですよね!
この作品のタイトルは、『かわいそうなドラゴン・タトゥーの女』がピッタリだと思う。
ということで次回は、『火と戯れる女の報復 ~アタシを捨てた男にタトゥー~・ドキッ! 湯けむり旅情編・(ミカエルのナニが)ポロリもあるよ!』をご期待し──ないでください!