『永遠のこどもたち』 (El Orfanato)
脚本と演出が見事な映画です!
ベレン・ルエダが演じる母親が、子ども(ロジェール・プリンセプ)に向ける愛情を描いた作品で、幻想なのか現実なのか境界が あいまいな世界に観客である自分も引きずり込まれました。
──じつはホラー映画的な一面も あります。日本版の予告編映像を見て、「感動作と思ったのに恐かった!」という人が多かったらしい。本当にショッキングな場面は 1-2 か所なんですけどね。
一方で DVD に収録されている海外版の予告は、ホラーな面ばかりを集めた映像でした。どちらにしても、この映画の良さが出せていないと思う。
よく『シックス・センス』と比較される作品です。なるほど、両方とも観ておくと「良い意味で だまされる」楽しみが味わえますよ!
Reviewer: あじもす @asiamoth,
母の愛
主役である母親のラウラは神経質な面が序盤から見えて、あまり第一印象が良くなかった。急に子どもが いなくなる恐怖を思い知る作品ですが、この母親なら子どもは逃げ出したくなるでしょう。
そして子どものシモンも、けっこう憎たらしい感じで描かれています。「空想の お友だち」と遊ぶところは子どもらしいけれど、やたらと細かい質問ばかりするし、親の苦労も知らずにワガママばかりを言う。
──そこが良かった!
シモンを「良い子」に見せないことで、一段とラウラの愛情の深さが際立ちました。第三者から見たら かわいげのない子でも、母親だったら無限の愛で包み込む。たとえ、実の子ではなくても──。
父の思惑
父親のカルロスは全体的に影が薄く、息子が いなくなってから彼なりに努力したのでしょうが、熱意が まったく伝わってきません。彼に関しては、まるで意図的に好印象を持たないように操作しているかのようでした。
ただし、誰だってカルロスの立場にいたら疲れ果ててしまう。おかしな連中と関わって妻まで異常になっていく──ように思うはずです。冷静に見れば、よく最後までガマンできたと思う。
しかし、「カルロスもシモンを愛している」と観客に思わせる場面が ほぼ皆無な点は気になりました。これも意図した演出なのか……?
永遠に生きる
やはり この映画の見どころは、ベニグナ(モンセラート・カルーヤ)のアレ──ではなく後半です!
いよいよラウラに打つ手が なくなり、ジェラルディン・チャップリン(チャーリー・チャップリンの娘!)演じる霊媒師の言葉を信じ──つつも半信半疑で行動する──。
そして、ついに「永遠の子どもたち」と出会う!
あの場面から最後までは、本当に霊的な存在と出会ったとも受け取れるし、すべてはラウラの妄想にも見えます。どちらを選ぶかは、観た人しだいでしょうね。
あなたは、どう思いましたか?
おわりに
できれば、ラウラは「永遠の子どもたち」と仲良く暮らした──と自分も思いたい。しかし、それならば最後にカルロスを出す意味がないし、それ以前に「シモン消失の真相」も不明にしておくでしょう。
そう、シモンが いなくなった理由を納得のいく形で出した以上は、すべてが現実の出来事であり、そこにラウラの「都合の良い解釈」が加わったと見るべきです。
つまり、この物語で重要な「宝探し」は、前半がシモン・後半はラウラが やったことなのでしょう。そのことをラウラは無意識の中に しまい込んでいる。
そこまで考えていくと、はたしてシモンが「あの場所」に いたのは事故だったのか──と疑いたくなる。ドアの取っ手を取り、警察も捜し出せないような状態にしたのは、本当に「永遠の子どもたち」のイタズラなのか……?
また、最後の場面でカルロスが笑った意味は、「ラウラと再会できた」とも見えるし、「やっかい事が済んで別の女性(マベル・リベラ演じる心理士・ピラール)と一緒になれる」とも思える。
シモンが「永遠の子ども」に なった本当の理由は、いったい誰のせいなのか──。