『日出ずる国の工場』
あなたの知らないハルキが見られる 1 冊です!
作家の村上春樹さんとイラストレータの 安西 水丸さんが一緒に工場見学をする。──という内容で、いわば「タモリ倶楽部」みたいなノリですね。
次の 7 工場を見学されています:
- メタファー的人体標本
- 京都科学標本
- 工場としての結婚式場
- 松戸・玉姫殿
- 消しゴム工場の秘密
- ラビット
- 経済動物たちの午後
- 小岩井農場
- 思想としての洋服をつくる人々
- コム・デ・ギャルソン
- ハイテク・ウォーズ
- テクニクスCD工場
- とことん明るい福音製産工場
- アデランス
ふふふ。結婚式場を「工場」と呼んでズカズカ入り込むところが楽しい! そして、その内容は もっと過激です。なぜか全編が毒だらけで、結婚式そのものに恨みでも あるのでは──と思ってしまう。
その逆に、アデランスの工場には感心されていました。なにしろ「世間の目という毒」に おびえる客を相手にしているから、社員まで滅入っていては商売になりません。ハゲしく明るい社内と技術力・将来性が素晴らしかった。
洋服好きの人は「コム・デ・ギャルソンの工場は どこにあるのか」なんて常識かもしれませんが──すくなくとも Wikipedia には書いてありません。知らない人には、ビックリするような実状ですよ!
ハルキ・マニアな人──は読んでいるだろうから、ハルキの小説に挫折した人へ贈りたい本です! 「精神的に不安定な女性」や「超・年の差カップル」や「幻想的な描写」や「羊」は出てきませんよ!
数値化される牛
「種馬」なんて言葉を聞くと、男性ならニヤリ・(カマトトな)女性なら赤面してしまいますよね。なぜだか分からない人は、分かってください。
同じように、小岩井農場にいる「種牛」たちも、さぞかし種の本能を満たし尽くす人生(牛生)を送れるのかと思ったら、──そこには残酷な現実が待っていた。肉牛と どちらが良いか──という次元の話です。
過酷な思いをしているのは、牛たちだけでは ありません。「経済動物」と呼ばざるを得ない現状のなかで、牧場の人たちも苦しんでいる。
自分は『美味しんぼ』が大好きなので、ほかの生き物たちによって生かされているという「人間の業(ごう)」について考えてしまいました……(3 秒間くらい)。
みなさんも、食べ物は しっかりと味わいましょうね!
手作りが生み出す美
ファッションの専門学校に通っていた自分としては、ファッション・デザイナである川久保玲(かわくぼ れい)さんのパッツン前髪を見たり、「コム・デ・ギャルソン」という言葉を聞いたりすると、
「わーーーっ(はぁと)」
──と なってしまいます(?)。そのため、コム・デ・ギャルソンの工場を見学する章は興味深かった。入ってビックリの光景が広がっています!
──まぁ、読んでのお楽しみに しておきましょう。
華々しいファッション業界からは想像もできない場所にある工場は、逆にブランドへの信頼が増しました。「世界一の生産数を誇る!」なんて うたい文句の工場からは、川久保玲の美学は生まれて欲しくない。
おわりに
タイトルを見て、小林よしのり氏の『ゴーマニズム宣言』をまっ先に思い出しました。
『日出ずる国の工場』も、「ゴーマンかまして よかですか?」な主張が何カ所も仕込んであります。そうした普通の工場見学レポートでは読めない部分こそ、一番おもしろかった。