ダークナイト
本作のテーマのひとつは「二者択一」でしょう。「究極の二択」な場面がいくつも出てきます。
タイトルからして「暗黒の騎士」なので、自然に対の「光の騎士」を想像する。それがジョーカーではない、というひねりが利いているのも良いです。暗黒を取るか光を選ぶか──、それを仕向けるのがジョーカー、という構図が面白い。
もうひとつの題目は「二面性」。主要キャラクタはみんな、裏と表を持った人物に見えます。はっきり言うと、「腹黒そう」。──お金持ちが多いので、ひがみが入っているのかも。前回の感想からも、そのひがみが感じられます。
『ダークナイト』 バットマン対ジョーカー、だけではない : 亜細亜ノ蛾
主役のバットマンからして、昼間は大企業の会長という顔を持っている。それだけではなく、カモフラージュのためにプレイボーイみたいに振る舞う──のだけれど、あまりにも板についているな、と思ったしだい。ヒロインが彼を選ばなかったのは、本当にバットマンをやめないからか? と疑う余地がありますな。
「二者択一」と「二面性」を最もよく表しているのが、トゥーフェイス(二つの顔)。相手を殺すかどうかをコインの裏表で決めたり、以前の彼からは考えられないほど復讐心を燃やしたり……。
市民たち、そしてバットマンが下す決断には「最良の選択」と言えないものもあり、それが作品の良さにつながっている、という奇妙な映画でした。

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ジョーカーの審判
ジョーカーはバットマンとゴッサムシティの市民に、さまざまな二択を突きつけます。
その中でも興味深かったのが、2 つのフェリィの場面。どちらの船にも爆弾が仕掛けられ、爆破スイッチはそれぞれ相手のフェリィに置いてあります。スイッチを置いた船だけが助かる、という状況……。
片方には一般市民、もう片方には囚人。──はたして、相手の船を爆破して助かるのは、どちら?
映画的には、十分に結果の想像がつくところですが、見せ方がうまい。自分が乗客だったら──、そう思わせるだけの説得力がありました。
そう、何度も出てくる二択に、だんだんと観客も巻き込まれていくような錯覚。「もしも自分がここにいたら」──と。
それにしても、『SAW』のジグソウと違って、強い目的があって二者択一を迫っているわけではない、というのがジョーカーの恐ろしいところです。
最後の二択
映画のラストで、バットマンは 2 つの決断をします。
まず、ジョーカーに勝ったとして、彼をどうするのか。
そして、ゴッサムシティのためにどう動くのか。
2 つとも、つらい選択でした。それに、ベストの判断だったのか、いまでも分かりません。
自分がバットマンだったら、別の行動を起こしたと思う。ただ、彼と同様に、いくらか後悔したでしょう。
まとめ
ヒーローものがどこか空虚さを感じるのは、英雄たちが自分──観客とはかけ離れた存在だからだ。ただ、観客が日常を離れて酔うためには、ある程度の空々しさが必要だ。
『ダークナイト』は、その現実感のなさを徹底的に消している。ひょっとしたら、ジョーカーやトゥーフェイスが、どこかをさまよっているかも──。
しかし、「金持ち喧嘩する」なバットマンが現れるかどうか、疑問だ。金があるなら、私設部隊を作るだろう。会社の金を武器の制作に回すよりは現実的だ。
そのような細かい疑問を「エンタテインメントだから」という理由だけで逃げず、ぎりぎり現実味を感じさせ、なおかつ極上の娯楽性を持たせる──。
リピータが多い、という話も納得できます。自分も、もう一度劇場で見たいと思います。
──あ、そうそう。本作には「いくらでも深読みができる」という批評が多いです。しかし、「あの記号の意味は?」とか、「あの人物が言った暗号の答え」とか、もっと直接的に言うと「エヴァ的な謎」みたいに本筋の外にあるのではない。物語そのもの、人生そのものに関わるような部分で深く見られる、というのが素晴らしい。
トゥーフェイスに語ったとおり、ジョーカーがまったくの「考えなし」で犯行を行っていた──わけではないのは見て分かる(よね?)。では、彼は本当に「世界が燃えるのを見て喜ぶ男」なのか──?
バットマンがこの映画のあと、どんな道を歩くのか、想像するのも楽しいです。いや、それは苦難の道か……。