『最後の恋のはじめ方』 (Hitch)
最高に面白い恋愛映画です! 絶対のおすすめ!!
ウィル・スミスが主人公のラブ・コメディ──と聞いただけで、「ちょ→格好いい彼が、ステキな恋を楽しむ映画」だと思いますよね? 違うよ。全然違うよ。
こんなに不格好なウィル・スミスは、見たことがない!
ウィル・スミスが演じているアレックス・ヒッチは、「デート・ドクタ」です。──何それ?
最近になって、「○○歳になっても女性と付き合ったことのない男」が主役の映画をよく目にしますが、ヒッチはそんな男性をサポートする立場にいる。モテない男のために、恋のきっかけを演出して、報酬を得る仕事です。
その演出の仕方が面白い!
たとえば、女性の飼い犬を危機から救った──かのように見せかけて、出会いを劇的にするのです。
「えっ、そんなことで!?」と思うかもしれません。そんな時には、『さよなら絶望先生』で有名になった下の言葉を覚えておきましょう。
恋が始まるには、ほんの少しの希望があれば十分です。
Stendhal(スタンダール)
「家族そろって安心して観られる」(気まずくならない)内容だし、舞台も映像も美しい。
音楽も最高にスタイリッシュなのですが、2005 年当時の流行歌ばかりなので、いま聴くと懐かしい感じですね。久しぶりに再開した友人と観るのにも向いています!
肉食系・草食女子
ヒロインのサラ・ミラスは、エヴァ・メンデスがキュートに演じました。「男っ気のない仕事が命の女」という役柄がもったいないくらい、セクシィで──いわゆる「肉食系女子」なエヴァです。
安直に彼女を脱がしたり、ベッド・シーンを出さなかったのは素晴らしい!
日本語の吹き替えでサラの声は、瀬戸朝香さんが担当している──と見終わったあとで知りました。正直に言うと、「ちょっと──たどたどしいなぁ……」と思いながら聴いていたのですが、瀬戸さんもセクシィな声で、エヴァにピッタリです。
カッコカワイイ主人公?
映画の前半は、「格好いいウィル・スミス」をタップリと味わえる。いつものように、余裕のある態度がにくたらし──うらやましいです。
女性と一緒に行った写真展での立ち振る舞いを指導したり、別れ際にするキスの法則・「90%:10%」まで伝授する。こうやって他人に恋の手ほどきをしている時は、アレックスも自信たっぷりで格好いい。
ヒッチ自身がバーで出会った女性を口説く手口も、堂に入っています。「ウィル・スミスは、素でやってるんちゃうかー?」と思ったりして。
ところが、ヒロインのサラに対してだけは、ヒッチのテクニックは通じない。そこが面白かった!
初めてサラと出会った時には、ググッとピンそばまで寄せる絶妙なアプローチをしているのに、そこから先のヒッチは、「ブザマね」の連続です。
何度もヒッチの「シャツがさらわれる」くだりには大笑いしました。どンだけそのシャツに嫌われてンだよ!
あとは、「魚介類にあたって顔がはれる」場面も笑える。同じ体質の人には、深刻でしょうけれど……。こんなにブチャイクなウィル・スミスは、ほかでは見られません!
どうやらウィル・スミスは、さかなクンにはなれないようです……(「さんをつけろよデコ助野郎!」)。
さかなクンさんの後継者は、スヌープ・ドッグで決まりですね!(ドッグなのに魚?)
人気ラッパーのスヌープ・ドッグがさかなクンをリスペクトしているらしい ? ロケットニュース24(β)
そもそも大学生時代のヒッチは、あか抜けていなかった。これまた「ウィル・スミス史上最高の激ダサ」な姿が見られます!
そこでの苦い経験を教訓にして、ヒッチはモテ男になって夜な夜な夜な女を泣かせる──のではなく、自分自身の経験をダメ男たちに教える方向へ行ったことが素晴らしい!
まぁ、たっぷりとゼニはもらうけれど。
ムリすぎる恋のゆくえ
さて、そんな(どんな?)ヒッチから恋のテクニックを教わるのは、アルバート・ブレナマン(ケヴィン・ジェームズ)という──「ダサい」を絵に描いたような男です。
身のこなしもドンくさいし、服装もイケてない。体形も「ポッチャリっていうレベルじゃねぇぞ」という感じです。
ハッキリ言って、アルバートが最初に画面に出てきた時には、(女性でもないのに)「生理的にムリ」という言葉が頭に浮かんでくる。
アルバートが恋する相手は、アレグラ・コールというセレブです。演じているアンバー・ヴァレッタはレオナルド・ディカプリオの元カノ──と言うだけで、どれほど身のほど知らずな恋かが分かるでしょう。
ところが! 後半になるにつれて、どんどんアルバートのことが好きになりました。彼のような男性には、幸せをつかんで欲しいですね。
──え? アナタは最後まで、アルバートは好きになれなかった? もしかしてアナタは──「男を見る目がない」と言われませんか……?
アレグラとお近づきになれたのはヒッチ先生のおかげではあるけれど、アルバート自身が恋に誠実であるところが大きい。
誠実なアルバートは、この映画のもう 1 人の主人公です。いや、真剣に恋をしている人は、誰でも主人公になれる。
そう、この映画のテーマは「誠実」です。
同じくらい大好きな恋愛映画の傑作・『クローサー』と本作品とは、恋愛の相手に対する誠実さが正反対ですね。この 2 つの映画で登場人物たちがしていることは、同じ「恋愛」と呼んで良いのか、分からなくなる。
『クローサー』のほうは、「恋愛ゲーム」かなぁ……。
クローサー – 涙とともに味わわなければ、恋の味は分からない : 亜細亜ノ蛾
仕事には誇りを
この映画で自分が好きだったところは──山ほどありますが、中でも「ヒッチは自分の仕事に誇りを持っている」と感じられたところが良かったです。彼もまた、誠実に仕事をしている。
世俗的な目から見れば、「デート・ドクタ」なんて仕事は、軟派な感じですよね。古い慣習に脳みそを縛られた人は、「けしからん!」と思うはず。
映画のラストで「(恋には)ルールがない」とヒッチが言っているところからも、彼は廃業しそうな感じです。
ところが、その直前では、ヒッチが何か仕組んでいたことを臭わせる。つまり、最後の最後まで、彼はデート・ドクタであり続けました。
お見合いパーティの場面でヒッチが断言したとおり、彼のような人を必要としている男性は多いでしょう。じっさいに、ヒッチの元には感謝の手紙が届いている。
人から喜ばれる職業──なんと素晴らしい!
余談
こりずに、タイトルはゲーテの言葉から借りています。
あなたが私を愛してから私はどれだけ価値のある人間になったでしょうか。
ゲーテ大先生に文句を言うつもりはないけれど、元の言葉は──ややこしいし、ひねくれている。「私は、あなたに愛される価値があるのでしょうか?」と聞いているようにも受け取れます。
そう思うのは、私だけでしょうか?(ナントカ知恵袋)