リアル鬼ごっこ(映画) – 真新しい城の上に立つのは──愚かな王様

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『リアル鬼ごっこ』

Happy Setsubun!
(残念ながら──こんなにかわいい鬼ではなかった)

なかなか面白いアクション映画です!

原作は(ウェブ上ではとくに)有名な山田悠介氏の同名小説で、どうやってあのむずかしい食材を料理してあるのかが見ものでした。映画が始まる前から、ツッコミを入れる気満々です。

ところが、話の展開も分かりやすいし、人物の描写もていねい。映画としての完成度は高かったですね。


なんといっても、アクションが素晴らしかった!

主人公の佐藤翼(石田卓也)は、逃げることが天才的にうまい。彼自身もそう語っている。本来ならあまり自慢ができる技能ではないけれど、たしかに翼の逃げ足はすごかった!

追ってくる相手やカベなどを使った「立体的なかわし方」が見事です。彼の逃げている場面だけでも、この映画を観た価値がありました。


主人公の妹: 佐藤愛を演じた谷村美月さんも良かったですね! 序盤に出てくる病院で衝撃的な場面があり、後半の彼女を応援する気持ちにも余計に熱が入ります。あれは、ビックリした。

あの場面を見て、柄本明さんが嫌いになった人もいるのでは……。とくに、谷村美月ファンに多そう。


佐藤洋(大東俊介)は、翼の友人でありライバルでもあるという──、少年マンガに出てきそうなキャラクタです。

展開上、彼は 2 つの役柄を演じ分けるのですが、どちらもナイーブな感じが良かった。チンピラ風の格好をしているのに、品の良さを感じます。自分は、この映画の中では彼が 1 番好きですね。


このように、アクションも役者も展開も、バランスよく描かれている映画でした。ただ 1 つ──肝心の設定が穴だらけであることを除けば、素晴らしい作品です!(それ、致命的)

矛盾を楽しむ

ここまでの感想でお分かりのとおり、名字が「佐藤」の人物ばかりが出てきますが、その理由は──ちょっと納得できなかった。

しかし、映画や小説・マンガ──つまりは物語というモノは、理路整然としていて「答え合わせ」が可能なテスト用紙ではありません。マンガは面白ければいいんだ。


それはそれとして──。

『リアル鬼ごっこ』という作品は、設定に文句を言う楽しみまで提供してくれる。そう考えれば、これほど面白い作品は、ほかにはありませ──あ、日本の映画には多いかも……。下の作品とか、ね!

『L change the WorLd』 L と子役が神がかりの演技 : 亜細亜ノ蛾


まず、王様が「佐藤」を探す理由は良しとしましょう。

「探している人間が改姓していたらどうするんだ」とか、「年齢・性別で無関係な人間は分かるだろ!」・「殺す意味はないのでは?」──といった当然の疑問は、下の一行ですべて説明がつきます。

「王は狂っている」


映画を観ていて誰もが(たぶん俳優も)気付く矛盾点は、「パラレルワールドで死んだ人間は、ほかの世界でも死ぬ」というルールが、いつの間にか「1 つの世界で助かれば、ほかでも助かる」と拡大解釈されていること。

これは、おかしい!

見せ場である「感動的なシーン」の直前で、こんな矛盾した設定を持ち出してきたのにはガッカリです。


このガッカリのせいで、じつは最大の不可解な点──「この鬼ごっこに『ルール』があること」が気にならなくなりました。王の目的からすると、無差別に襲ったほうが効率的です。

王様は、意外と律儀な狂人でした。

おわりに

Wikipedia では、映画版のことを下のように書いてあります。──誤字まで原作のふんいきに合わせなくていいから!(2011/01/13 現在)

翼は分けの分からないゲームに強制参加させられてしまう……。

リアル鬼ごっこ #映画 – Wikipedia

でもどうせなら、「まず最初に、全国でもっとも最多の名字である佐藤姓の名字の人物が、怪死して死ぬ事件が全国でおきていた。」くらいの書き方にすればいいのに。


個人的には、作家の書いた作品に誤字脱字があったら、それを直すのは校閲の仕事だと思う。作家にアドバイスをするのは、編集者の役目です。出版された作品に問題があれば、編集長の責任でしょう。

山田悠介氏の文体ばかりを責めるのは、筋違いです。

責めるところは、ほかにもあるだろう!

余談

例によって、今回のタイトルもゲーテから借りました。

Twitter / @名言bot: 古の城楼の上に高く、英雄の気高き霊は立つ

さりげなく、「あんなにバカでかい城が、よく短期間で建ったな!」とつっこんでいる。

あと、「城の『上』には立ってないだろう」と指摘される前に言っておくと──、比喩的な表現ですね。