『冷たい熱帯魚』はスゴ映画! 村田幸雄よりも恐ろしい邪悪な存在とは?

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冷たい熱帯魚』 (COLDFISH)

A prince inside a shelter 透明な世界で──彼は笑う

極上の「居心地悪さ」を味わえる怪作です!

この映画を「ちょっと恐いらしい」程度の知識で観られた自分は、じつに幸運でした。ものすごく驚いたし、感動できたからです。

みなさんも、よけいな印象を持たずに観てください!

たとえるならば、「ヒキガエルとコオロギが ぎっしりと詰まったキングサイズ・ベッド」で寝た時のような、この上ない悪夢が体験できますよ! (←余分な印象)


監督は映画版・『ヒミズ』や『愛のむきだし』で知られる園子温氏です。路上パフォーマンス集団「東京ガガガ」の主催者でもあり、詩人でもある。ネクタイを締めて定時に出社するタイプ──とは対極にいるような方ですね!

出演者たち

主人公の社本信行吹越満氏が演じています。彼もパフォーマという点が興味深い。この映画では逆に、途中までは個性をあまり感じさせない演技をしています。それが後半に生きてくる!

吹越満 – Wikipedia

もうひとりの主人公である村田幸雄は、でんでん氏が怪演しています! 元・お笑い芸人だったそうですが、自分は知りませんでした。「ようみんなぁー、ハッピーかい?」と言っていた時代のファンなら、本作品で腰を抜かしてしまうでしょうね。

村田の妻・村田愛子も すごかった! 生き生きと魂のこもった妖艶さ黒沢あすかさんが見せてくれました。じつは、この作品で自分が一番 恐かったのは彼女です。

黒沢あすか – Wikipedia

社本の奥さま・社本妙子神楽坂恵さんが演じていて、作品に花を添えていました。ハッキリ言ってしまえば「お色気担当」で、以前はグラビア・アイドルだった彼女の魅力が十二分に楽しめま──ふぅ(←?)。

社本の娘である社本美津子は、じつは「裏の主人公」とも言うべき人物でした。梶原ひかりさんの演技を取り上げる人は少ないのですが、彼女がいたことで この映画が一段上の高みへ昇華したと思います。

梶原ひかり – Wikipedia

不透明な男

村田の「わざとらしい演技」が最高でした!

──もちろん、「『村田の わざとらしさ』をでんでんさんが上手に演じている」という意味ですよ! 冒頭のスーパや「AMAZON GOLD」の場面から、ずっと違和感がつきまとう。あの「いたたまらない感じ」は独特ですね。

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まずは社本の奥さまに、そして社本に──と本性を見せていく村田に圧倒されました。

社本の妻に手を出した時には、「ああ、ソレが目的の男なのか」と甘く考えていただけに、吉田の登場あたりからジンワリとイヤな汗が出ます。

この映画が実際にあった事件を元にしたとは知らずに観ました。だから、てっきり吉田の「解体」は何らかのトリックで、社本をだます手口なのかと思いましたね。そうだったら、どんなに良かったか……。

埼玉愛犬家連続殺人事件 – Wikipedia

Cold fish な人とは

冷たい熱帯魚』には(おそらく海外向けに)『COLDFISH』という英語のタイトルも付いています。「cold fish」を日本語にすると「冷たい人,冷淡な人.」となる。

cold fishの意味 – 英和辞典 Weblio辞書

いろんなブログの感想を読むと、cold fish とは「冷酷な村田」のことだと考えている人が多い。下で書いたように、中川翔子さんも村田は怪物だと思っている。

冷たい熱帯魚/みんなのそばにも村田がいるよ | 映画感想 * FRAGILE

しかし自分には、あきらかに もっとも冷たい人物は社本信行だと感じました。

村田が見破ったように、社本が家から娘を追い出したのは、若い妻と楽しむためです。妻を置いて おとなしく帰ったり、村田の片棒を担いだり、自分で判断することを放棄した生き方をしている。

もっとも恐い妻

村田幸雄は「理解できる恐さ」を持っています。

けっして村田は「快楽殺人犯」ではないことに注意しましょう。彼が誰かを「透明にする」理由は、すべて利害のためでした。同業者を実力でねじ伏せるビジネスの世界と同じです。

楽しそうに「解体」をすることも、「仕事」に喜びを見いだしているに すぎません。言うならば「快楽解体者」といったところです。

社本は もっと分かりやすい。前半は村田の暴力に屈して従い、後半はキレただけでした。

──でも、理解可能な恐怖のほうが、より身近に感じられる。チェーンソーを振り回す大男や人を食べたヒグマと森で出会うようなものです。


村田愛子には「理解できない恐さ」がある。

上の たとえでいうと、大男やヒグマから「お逃げなさい」と紳士的な態度でいわれるような気味の悪さですね(?)。

Wikipedia によれば、黒沢あすかが笑っているくだりでエンドロールという案もあったそうです。たしかに あの場面の前後で、「村田編」が終わって「社本編」が始まる感じがしましたね。

前半までの愛子は、「暴力的で強い男が好きな女性」なのかな──とも思えました。後半の愛子も、「村田を倒した社本」に強さを感じて好きになったようにも見える。

それにしては、変わり身の早さが異常です。

「透明にした」吉田の身内が乗り込んできた修羅場なのに、騒ぎを BGM にして愛子は女性店員とイチャついていた。ここからも分かるように、混沌を一番愛しているのが彼女なんですよね。

愛子は──いや女性は、理解を超えたところにいる。

中川翔子さん 絶賛!

冷たい熱帯魚』を知った きっかけは、中川翔子さんのブログでした。「──なんで、しょこたんが?」というは、彼女が『脳子の恋』を描いたホラー・マンガ家でもあることを思い出しましょう。

中川翔子 #漫画 – Wikipedia

しょこたんは村田が大のお気に入りで、でんでんさんと お会いした時に「生村田!生でんでんさま」と大喜びでした。

お母様の桂子さんと一緒に楽しんでしますね。この映画を親子で楽しめる家庭は、とても健全です。

しょこたん風に言うと、「すごかりし映画」でしたね。下のエピソードも すごい!

吉田さん、元気でなー!の名台詞はなんとでんでんさんのアドリブだったっか!

おわりに: もっとも邪悪な彼女

社本が村田を刺したあとは蛇足に感じていました。

──最後の一場面を見るまでは。

村田が社本の親代わりになって説教する場面や、「生きるってのはな──痛いんだよ」という社本の最期の教えで、なんとなく人生の教訓を知って良い気分で席を立とう──とする直前に「アレ」ですからね!

気弱な夫から怪物の男に生まれ変わった社本──を文字どおりに蹴り飛ばすラストがあることで、「映画から教訓を学ぼうなんて正気の沙汰だ」と監督に言われたように感じました。自分も普段から そう思っています。

そもそも、今回の一連の悲劇(喜劇?)は、いったい誰のせいで始まったのか──を思い出してみましょう。そう、すべては彼女から始まり、そして終わりました。

本作品で一番の邪悪な存在は、間違いなく彼女です。