バクマン。 #42-2 「笑いとセリフ」 素直な行動と冷たい反応

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『バクマン。』 42 ページ 「笑いとセリフ」 (週刊少年ジャンプ 2009 年 30 号)

[AnimePaper]wallpapers_Ghost-in-the-Shell_lil-dice_48350 (by nxtiak) (by nxtiak)

高浜には単純な疑問がある。『疑探偵 TRAP』は面白いのに、順位が上がらないのはなぜか?

このシンプルな問いは、あらゆる作品作りに関する、永遠の課題かもしれない。面白いだけでは人気に つながらなかったり、あるいは人気が出るほど駄作と見なされたりもする。

それにしても、『ドラゴンボール』以降はバトルマンガ以外に流行作が少ないジャンプで、連続殺人犯が主人公のマンガマンガ家が主人公のマンガをヒットさせている作者が、シレッと畑違い なんですかね? などというセリフを書く。これがたまらなく愉快だ。

ようするに、本当に面白い作品であれば、ジャンルを問わずに読者は支持する、ということである。大場つぐみ・小畑健コンビは、本作と前作で証明した。

──まぁ、まだ『バクマン。』は終了していないから、このあとの展開でバトルマンガになったり、お色気路線へのテコ入れが行なわれたりして、つまらない作品になる可能性はある。わけがない(速攻で否定)。

5 位でもいいくらい

読者の支持を集めるためには、どうすればいいか。それを素直に高浜へ聞くシュージンが素晴らしい。

以前、『CROW』が(本人は そうとは知らずに)伸び悩んでいる時に、新妻エイジは福田へ素直に意見を聞いた。その話がシュージンの頭の中に残っていたのかもしれない(サイコーから直接その状況を聞いた、という描写はないが)。

高浜の冷静な分析に、サイコーとシュージン(ついでに見吉)は驚いている。こういった第三者からの客観的な視点が時には必要だ(高浜は身内だが)。

高浜は すでに、「亜城木夢叶」の一員と言っていい。たぶん、作品には こういった「クレジットされていない人からの助言」で支えられている、という部分が大きいのだろう。

笑いか…

この場面でギャグセンスが あるかないか──と言っている見吉は、妙にカワイらしい。微妙に左右の目の位置がおかしい気もするが、それが逆に「萌え絵」っぽい・同人っぽいフンイキを醸し出している。──そうか?(聞かれても困るだろうが)

頼むから 黙っててとシュージンから言われたあと、素直に見吉は謝っている。ここはコント風だが、シュージンの反応が冷たすぎるのでは──と思った人もいるだろう。これはなぜか。

おそらく、シュージンと見吉が 2 人で会っている時には、もっと会話の様子も違ってくるはずだ。しかし、今は仕事場に来ており、仕事の話をしている。だから、「もう少しマジメに答えて欲しい」という意味でシュージンはツッコミを入れているのだ。そして、見吉も すぐにそれを察した。

見吉は、「空気が読める子」なのだ。どこぞの「カレシを放置プレイ中」のお姫様とは違う。

──まぁ、それでもサイコーと高浜からすれば、

「おいおい、夫婦(めおと)マンザイは今度にしてくれよな www」「そうそう、ツッコミはベッドの中までガマンしな YO!」「HAHAHA!!!!」

と言いたいはずだ(違うと思う)。

せめて一桁に

『TRAP』について、服部は港浦へ何も指導していないことが分かった。

服部が言うとおり、それぞれの作品には担当がついている。だから、ほかの担当者に対して何か言うことはない。──ジャンプでは、基本的に そういう方針で雑誌作りを行なっているようだ。

まぁ、「担当編集者」という言葉の意味あいと立場からすれば、当たり前のことだろう。しかし、もう少し担当者同士での話し合いがあっても良いのではないか、と思った。

前回でも「雄二郎と吉田が『TRAP』について激しく議論を交わす」ことを瓶子が注意している。より良いマンガ作りのためなのだから、もっと盛んに話し合いをすればいいのに、と思った。

心配は してるよ

港浦と服部との会話は、「一問一答」式になっている。そして、2 人の温度差がスゴい。

服部の言葉尻をつかまえる港浦には注目だ。ものすごい食いつき方だが、それよりも前後の流れを見るべきである。のらりくらりと会話をしながら、服部から何とか作品作りのアドバイスを引き出そうとしているのだ。

このあたり、港浦という男が、意外に食えない人物であることが分かる。熱血漢の単純バカと思いきや、奥が深い。──『HUNTER×HUNTER』に登場するモントゥトゥユピーを思い出した。

その港浦からの質問(尋問に近い)を受けて、それでも服部は明確に答えない。しかし、心の内では言いたい事が山ほどあるのだろう。

センス かな

『TRAP』が人気マンガになるヒントを、服部から聞き出そうとして、港浦は必死だ。

一方の服部は、しつこいな おまえと返したり、冷ややかな目で港浦を見たり、席を離れたりしている。

この姿を見て、「服部は何て冷酷な人間なんだ!」と思った人もいることだろう。そして、その印象のまま今週号を読み終えたのであれば──

──残念ながら、その人にはマンガを読むセンスがない。

さて、一度はセンスないって 言われたら 終わりだ…と あきらめかけた港浦は、どういう行動に出たか。もう一度、見直そう。

コメント

  1. K2nd より:

    ども。今週号はいきなり随分前の方に連載していてほっとひと安心したバクマン。
    アンケートの集計方式が、アメリカ型経営の4半期単位での利益(短期)を近視眼的に追いかけ過ぎるような方式だと、長期的にジワリジワリとキャラや伏線がきいてくるような、超本格的な漫画がジャンプには育たないという印象を随分前からもっていて、大場&小畑コンビ以外の漫画は、ここ数年まったく読んでいない状態なんですよね。(ドラゴンボールと北斗の拳とJOJOは別格です)
    最近では「ヴィンランド・サガ」(アフタヌーン系)が凄く好きだったりするのですが、あれを週刊ペースで描くのはかなり無理があることも十分にわかりますが、ああいう骨太な漫画とかがジャンプで読めるというのは今後もないのでしょうかね。多くの人に読んでもらいたい作品なので、作品のファンからするとジャンプという国内最大シェアにそういった骨太系がないのが残念だなと。明確ではないにしろ、少年と青年でやはり線引きがあるのでしょうかね。
    ここから本題で、前回のコメントからの引用。
    >そうですねー。ほかのサイトは見ないようにしています。影響されやすいので。
    どんな世界であれ、プロを目指していている方で時々同じような意見を拝見するのですが、プロとかプロ中のプロの方からはこういう感じのコメントはまずほとんど聞かないというのが僕の経験上の認識なんですよね。むしろどん欲に入力は360度という方の方が、プロ以降もグングン成長しているような印象です。
    >まぁ、「担当編集者」という言葉の意味あいと立場からすれば、当たり前のことだろう。しかし、もう少し担当者同士での話し合いがあっても良いのではないか、と思った。
    例えば、編集でればお互いに意見交換をした方が良いというように考えているasiamoth氏がいる一方で、同じようにバクマンという作品を愛して毎週こと細かく感想を書く仲間と意見交換をしないというのは、僕からするととても不自然に感じます。
    これだけジャンプを毎週目を皿のようにして読んでいる方で、写真もおしゃれに撮影するセンスをもっていれば、影響されるというような表現より、吸収してより本質的価値を盗むくらいの勢いがあっても良いんじゃないかなぁというのが正直な感想です。
    という訳で宣伝という訳じゃなく、これに関連した僕なりの解釈のページをご紹介。
    「宿題をやる:優れた芸術家は模倣するが偉大な芸術家は盗む」
    http://www.ixus.jp/archives/51780537.html
    確かに江戸時代のように、一度本人の世界が固まるまでの一定の期間に情報の鎖国をするというのは、わかるような気もするのですが。もしかすると今はまだそのフェーズなのでしょうかね。

  2. asiamoth より:

    読者からの人気を得るために努力を重ねるマンガ編集者と、個人のマンガ感想サイトの運営者と、同じように比べられると困ります。
    ほかの作家からは影響を受けない、と(少なくともインタビュアの前では)答える人もいますよ。それに、インプットは同じジャンルに限る、というワケでもないでしょう。
    マンガ家の荒木飛呂彦さんは、絵画や洋楽・映画からマンガのヒントを得ています。小説家の森博嗣は、「面白い小説を書きたかったら、10 年くらい小説を読むな」と若手作家にアドバイスしているくらいです。

  3. K2nd より:

    ども。読み返してみると大変失礼な書き方であったと反省しております。申し訳ございませんでした。
    もう少し柔らかく、伝わりやすく例えるならば、私がバクマンの別の方の感想を読んで得た解釈であったり、自分なりの感想を持っていた時に、先日のようなバクマンに対する解釈の違いなどをこちらのサイトにコメントするというのは、そのコメントを読むことになるasiamoth氏にとっては、影響されやすいのであまりそういったコメントはよろしくないというように捉えて良いのでしょうか。
    漫画が大好きで、漫画をとことん読んで描くエイジのような人を、私もリアル知人で何人か知っています。もちろんそういった方々も漫画ばかりを読んでいる訳では全然なくて、360度様々な情報からヒントを得て描いてます。バクマンに登場する漫画家やその卵たちもライバルたちの漫画を積極的に読んで研究してますよね。(もちろん偏りもそれなりにありますが・・・)
    別の例でいうと、asiamoth氏はデジカメで素敵な写真を沢山撮影されていると思うのですが、他の方の写真(frikrなど)も記事に多く引用して掲載されています。もし、漫画の感想と写真が同じ自己の表現という意味での趣味であるならば、漫画の感想と写真とは、同じ趣味でもスタンスがまったく違うというか、入力に関する姿勢が根本的に異なるというような感じでしょうか。
    自分と同じジャンルの出力をなるべく見ない方と、積極的に見る方とそれぞれの流儀があると思いますが、asiamoth氏のバクマンの感想を半年以上に渡って読ませて頂いてる1読者からすると、しっかりとご自身の審美眼があるように感じていたので、デリケート過ぎてかなり違和感を感じたレスだったので長々とコメントさせて頂きました。
    漫画の感想についてはそうなんですと言われたら、そうなんですねで終わってしまう内容なのですが・・・^^;
    P.S.マンガ家の荒木飛呂彦氏は、漫画家としてデビューする前に手塚氏の漫画や石ノ森章太郎氏の漫画など、様々な漫画を読んで影響を受けています。宮崎駿氏も手塚氏の影響を受け過ぎていて、逆に一度全部破り捨てて再度独自の映像文法的な世界を構築された方でもあります。
    小説家の森博嗣氏が、「面白い小説を書きたかったら、10年くらい小説を読むな」と若手作家にアドバイスしているというのは、安易にコピペする人があまりにも多いので、そのように表現していると私は感じます。漫画にしろ小説にしろ写真にしろ、それぞれのメディアの作品にふれてなければ、まずそのメディアで表現しようとは思わないと思うんですよね。

  4. asiamoth より:

    そうですね。またいろいろと研究してみます。
    ありがとうございました。

  5. K2nd より:

    こちらこそ、いつも鋭くて面白い感想をアップしていただきありがとうございます。ほぼ毎日欠かさず拝見させて頂いております。
    現状の感想でも十分に読み応えがあると感じておりますが、さらに才能を爆発させてください!
    先程のコメント後にWikipediaで確認していたら、荒木氏の吸収力や高度な引用(ある意味で盗んでいるw)に改めて驚かされました。本当に凄い作家さんですね。
    荒木飛呂彦
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%8D%92%E6%9C%A8%E9%A3%9B%E5%91%82%E5%BD%A6