アリス・イン・ワンダーランド – いつまでも夢見る乙女は霧に消え

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『アリス・イン・ワンダーランド』 (Alice in Wonderland)

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(最後にハッキリと──白赤つけよう)

「へんてこりんの ぽんぽこりん」な人物ばかりが出てくる映画です。まさにティム・バートン監督らしい世界を描いた作品でした。なぜ、いままで彼が撮影していなかったのか、不思議に思うくらい。

本作品のストーリィは、世界的に有名な物語である(けれど自分は読んでいない)『不思議の国のアリス』と『鏡の国のアリス』の後日談です。幼少のころに冒険した「不思議の国」を、成長したアリスが十数年ぶりに訪れて──という感じ。

まるで、以前に流行した「いつまでもオトナになりきれない人」を描いた作品のようですよね? 最後に「現実に帰れ!」と叫ばれそう。

ところが、この映画に出てくる主人公──アリス・キングスレーミア・ワシコウスカ)は現実的な考え方をしていて、「早く夢が覚めないかな」と思いながら冒険をする。しかも、ずっと──しかめっ面なのです。

こんなアリスは、見たことがない!

世に知られている原作をリメイクする場合は、現代的なテーマを盛り込むことが多いです。監督か脚本家の政治的な主張が見え隠れして、残念な結果に終わる映画もある。

『アリス・イン・ワンダーランド』は、そういった説教臭い面がありません。そこが良かった。

ジョニー・デップが演じるマッドハッター(タラント・ハイトップ)などの奇妙な登場人物や、不気味に美しい「アンダーランド」を眺めているだけでも面白い。家族や友だち・恋人と安心して楽しめる傑作です。

生意気アリス

アリスが小生意気な子という性格設定が、とても新鮮でした。冒頭の馬車の中で、「笑顔が──あまり かわいくない」ことをわざわざ見せているくらいだから、確信犯的な演出なのでしょう。

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ドレスを着ているよりも、鎧に身を包んでいる姿のほうが似合うアリスです。

ファンタジックな世界観なのに、最後には本当に剣を振り回してアリスは戦っている。「剣を一振りすると稲妻が飛び出して──」というバトルを想像していたから、これは不意打ちでした。

おかしな帽子職人

マッドハッターは、ストーリィから考えて、「赤の女王が仕組んだジャバウォックの襲来事件」のショックで気が触れた──としても良いのに、事件の前から変わり者に見えます。

ときどきマジメな表情で語り始めたり、陽気に はしゃいだり、そうかと思えば格好良く戦ったりして、いろいろな表情で楽しませてくれました。ジョニー・デップが、1 人で何役も演じているみたいです。

マッドハッターの衣装の提案もしたそうで、ジョニーはこの役を気に入っているようですね。監督の言うことを、ただただ聞くだけではない。プロの意気込みを感じました。

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あまり白くない女王

アン・ハサウェイは大好きな女優さんで、彼女が出演している作品を何度か取り上げています。今回は、白の女王(ミラーナ)を演じました。

日本語吹き替えでは、白の女王を深田恭子さんが担当しています。これで好きの二乗になりました──と言いたいところですが、何やら様子が違う。

アン・ハサウェイは、大きな大きな 2 つの瞳が特徴的です。白の女王だけあって、今回は厚塗りの白い化粧をしているため、余計に目の大きさが目立つ。すると──、なんだか不気味に見えてしまうのです。

それに、この女王は、名前のわりに──腹黒でした。とても純真無垢なプリンスには思えません。

白の女王の行動を振り返ってみると、上手い具合にアリスを利用して、まんまと赤の女王から権利を取り返している。その上、実の姉を国外追放・幽閉にしています。いくら姉からひどい目にあったとは言え、和解する余地はなかったのでしょうか。

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ハートをジャック

主役級よりも好きな登場人物は、ハートのジャック(本名: イロソヴィッチ・ステイン)です。

どう見ても彼は、権力と富を手に入れるために、赤の女王に従っている。ところが──じつは、たんなる「大きな女性好き」だったという……。

でもこれは、見方を変えれば、赤の女王を純粋に好きだったと言えます。イヤイヤつき合っていたわけではない。自分の容姿にコンプレックスを持っていた女王は、ジャックの存在は ありがたかったでしょう。

最後のほうでは、女王と 2 人きりになることをジャックはイヤがっています。上のことから考えると、これは不思議でした。気持ちがアリスに傾いたからなのか、もともと権力目当てだったのか──。いずれにせよ、女王が気の毒です。

ハートのジャックは、絶妙にヘンな歩き方も面白かった。「事情通」から見ると、CG のレンダリングに不具合があったのでは──と思うような、不思議な動きです。

メイキング映像を見ると、「竹馬」(シークレット・ブーツのほうが近い)を履いたままで演技をしている。だから、あのような不自然な歩き方になるのです。

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トウィードルダムトウィードルディーも、役者は似たような格好で歩いている。しかも、マット・ルーカスの一人二役です。その合成の仕方がすごい。こんなこと、よく思いついたな! と感心しました。くわしくは、DVD/BD に収録のメイキングをどうぞ。


彼を演じているクリスピン・グローヴァーは、映画ファンなら何度も目にしているかもしれません。一番有名な出演作は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1) で、主人公であるマーティ・マクフライのお父さん──ジョージ・マクフライ役が、クリスピンです!

ものすごく二枚目なジョージのことは強く印象に残りましたが、なぜか 2 作目以降は出演を断わっている。──もったいない! その理由は知りませんが、ハリウッドきっての変人と聞いて、なんだか妙に納得してしまいました。

クリスピン・グローヴァー – Wikipedia

情熱と激情の女王

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この映画で一番かわいらしかったのは、何と言っても赤の女王(イラサベース)です! ヘレナ・ボナム=カーターがキュートに演じました。

すぐに「打ち首じゃ!」と叫んだり、グロテスクに見える表情をさせたり、巨大な頭部に CG で変形させたりして──、普通に見れば、とても「かわいい」というキャラクタでは ありませんよね?

しかし、劇中で誰よりも「愛されたい」と願い、素直に生きている彼女は、自分には魅力的に見えました。

それだけに、最後が残念です……。たんなる「悪」として切り捨てるのではなく、改心の機会を与えて欲しかった。

おわりに: 『アリス』とゲーム

原作の『不思議の国のアリス』は、聖書の次に世界中で読まれている本と言われています。そのため、数え切れないほど多くの作品に影響を与えている。映画では、『マトリックス』が『アリス』をモチーフにしています。

参考: 不思議の国のアリス – Wikipedia

ゲームにも、『アリス』生まれのアイテムが多い。

映画の中でアリスが探し出したジャバウォックを倒すための「ヴォーパルの剣」という名前を聞いて、『Xanadu』シリーズに出てくる攻撃力の高い武器・Vorpal-Weapon を思い出しました。『アリス』が元ネタとはビックリです。

【4Gamer.net】[週刊連載]剣と魔法の博物館 ~モンスター編~ 第36回