『デジャヴ』 (Deja Vu)
意外な展開に驚く、素晴らしいアクション映画です!
主人公はデンゼル・ワシントンが演じるダグ・カーリンで、日本ではなじみの薄い「ATF 捜査官」という役職に就いている。「FBI の特別捜査官」でも「警察官」でもないところに、何かミソがあるのかな──と思わせる役柄です。
ATF とは: アルコール・タバコ・火器及び爆発物取締局 – Wikipedia
出航する寸前のフェリーから、『デジャヴ』は始まりました。日常でありながら非日常・慌ただしくて穏やかな舞台は、映画にピッタリです。効果的なオープニングでしたね。
船の乗客たちは、誰もが嬉しそうな顔をしています。真っ白い服に身を包んだ水兵たちは、さすがにすました表情をしているけれど、それが逆にカモメを思わせる。
──なんとも平和な始まり方です。
──数分後、彼らは爆死する。
上記のように、最初から画面に引きずり込まれるような展開が見事です。「フェリーが爆発する」と書く時点でネタバレですが、そうと分かっていても驚かされる映像ですよ!
フェリーの爆発はテロ事件であることを、ダグはすぐに突き止めます。その捜査の手際も鮮やかで、「地道な捜査で犯人にたどり着く映画」だと誰もが──だまされる。
ところが、捜査を支える斬新な装置が登場してから、映画のふんいきが一変します。この装置は非常にキケンで、一歩間違えると捜査どころか、映画の世界そのものが崩壊してしまう。なんとか上手にまとめていましたね。
途中で出てくるカー・アクションも、ほかの映画では観たことがないような仕掛けになっています。上で出てくる装置が、アクションでも生かされている。ほかの監督も、マネしたくて仕方がないでしょうね(過去にもあるかも?)。
自分のように、映画を観ている最中はボケーっとしていると、タイトルの意味に気がつくのは終盤です。それまでは、「どこが『デジャヴ』なんだ?」と思ってしまう。
でも、たとえば、この映画のタイトルを「装置の名前」にしたら──台無しだ! 見終わったあとに「どこからどこまでがデジャヴだったのか?」をじっくりと考えると、背筋がゾクッとしますよ。
官能的なヒロイン
ヒロインのクレア・クチヴァー(ポーラ・パットン)は、セクシィな目元(・胸元)と黒髪が目を引きます。
『デジャヴ』の大半は、主人公のダグがクレアのために走り回る──という話だったりする。それだけの魅力が、彼女にはあります。ポーラ・パットンは、まだまだ出演作はすくないけれど、この先の活躍を期待させる女優ですね。
それだけに──、
彼女が初めて登場する場面には、衝撃を受けました。
一番好きな場面
後半の展開と解釈ばかりが取り上げられる映画ですが、地味な聞き込みの部分まで手を抜いていません。
被害者の父親から、ダグが情報を聞き出そうとする場面があります。被害者である女性の写真を、父親は必死で渡そうとする。ダグも、うんざりとした表情をしています。
そんなに「被害者の生前の写真」を見ても、調査の役には立たない──と観客から見ても分かる。なぜ父親は、そうまでして写真を見せようとするのか?
写真をダグに差し出しながら、父親は言う:
- 父親:
- 「ぜひ、手元に置いてください」
- ダグ:
- 「その必要は──」
- 父親:
- 「いいえ、あります」
「通り一遍の捜査にならないように、娘の顔を心に刻んで欲しいんです」
普通の映画だったら、被害者の家族と言えば、警察の無能さを非難するか泣き叫ぶか──。まるで、人形や記号のように描きます。
ところが、この父親には、「血が通っている」。
この場面だけでも、『デジャヴ』を観る価値があると思いました。まさに、「神は細部に宿る」を体現している。
幻想的な最新技術
「きっかり 4 日と6 時間前の映像を、あらゆる方向から見られる」というモニタが登場します。この映像は録画できるけれど、後戻りはできない。ここにスリルが生まれます。
モニタに映し出されるイメージが素晴らしい! 高速でカメラを移動すると、光の帯が流れる。写真の「多重露光」を立体的にしたような、ファンタジックな映像美が見られます。
このモニタが出てきたことで、地味で地道な捜査は終わりか──と思いました。ところが、モニタを開発した科学者たちは、ダグに長年のカンを期待している。
近未来的な装置で──女性の私生活を盗み見ながら、マジメな顔で科学者たちに指示を出すダグには、ちょっと苦笑しました。
アレクサンダー・デニー博士を演じたアダム・ゴールドバーグは、いい味を出しています。いかにも容姿を気にしない科学者タイプに感じますが、よく見ると野性味あふれる顔なんですよね。
絶対に、女性科学者たちの間でモテているはず!
終わりに
冒頭の映像が繰り返される、終盤の演出がしゃれています。「デジャヴ」の感覚を、ダグと一緒に観客も味える。
最後は、あとに余韻を残す良い終わり方でした。半分は絶望だけれども、もう半分は希望に満ちあふれている。
彼と彼女との恋物語が始まるのは、これからでしょう。
じつは、一度観ただけでこの映画の全容を理解するのは、意外とむずかしい。一見すると、シンプルな構造だと思いますよね? 本当は、『インセプション』のように複雑なのです。
インセプション – 回り続けるコマ・倒れる現実 : 亜細亜ノ蛾
こちらの素晴らしい解説をどうぞ:
やっぱり見ていたような雰囲気 「デジャヴ」時間軸解釈完結編? – 杜の都のSF研日記
最後に気になることは──、キャロル・オースタッド(ジム・カヴィーゼル)とはいったい、「何者」なのか? ダグも、彼にそう問いかけている。たんなるイカレた人間には思えませんでした。
そして、「まさか──」と笑うダグの脳裏には、何が見えているのでしょうね。
余談
今回のタイトルは、なんとビックリ! ゲーテの言葉から借りています(いつものこと)。
Twitter / @ゲーテ名言集: 運命は深い傷をおわせるものですけれど、たいていは癒ります。心が人におわせた傷、心が自分におわせた傷は、癒らないものです。
初登場時のクレアは、「傷を負った」どころではないけれど……。クレアを救おうとしなければ、ダグの心にも傷が残ったでしょうね。