『中井精也の鉄道スナップ撮影術 ゆる鉄』 – ゆるくても甘くはない

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『中井精也の鉄道スナップ撮影術 ゆる鉄』

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(いつでも近くには──電車と空があった)

この本には「ゆる鉄」の魅力がタップリと詰まっています。鉄道写真にも電車にもあまり興味がなかった自分でも、本書を読んで車両たちに会いたくなりました。電車が吸い込んできた時代の空気を吸いたい。

そもそも、「ゆる鉄」とは何か?

──著者の中井精也さんが言うには、ローカル線に乗っているときに感じるような「ゆるい雰囲気」を写真として表現したモノのことです。あくまでもこの「ふんいき」が大事なんですね。

じつは、「ゆる鉄」写真の主役は鉄道ではない

では、どうすれば良いのか──は本書をご覧ください。

この本に触発されて、自分が撮影した中から「ゆる鉄」な写真をまとめました。また撮りに行こう!

ゆる鉄には気合いを入れて – a set on Flickr

「ゆる鉄」をたしなむには

最初の章・「ゆる鉄のこころえ」から面白い。なにしろ、鉄道写真なのに車両はなくてもいいと言っています。

  1. こころえ その一: 車両はなくてもいい
  2. こころえ その二: ゆる鉄センサーを研ぎ澄まそう
  3. こころえ その三: 目線を変えてみよう
  4. こころえ その四: とにかく撮る! でもときには粘る
  5. こころえ その五: ボケてても、ブレてても いいじゃない

中井精也の鉄道スナップ撮影術 ゆる鉄 p.12-23

ただし、これは「テキトーに撮ればいいよ」という考え方ではありません。たしかに、撮影の際はガチガチに緊張したりしないし、撮った写真には「適度な ゆるさ」を求める。

だからといって、「何をやってもいい」わけではない。

そこには、ある程度のルールがあるわけです。この本のタイトルにも、『──撮影術』とついていますからね。

使用機材

「ゆる鉄」では、選ぶ機材もかわいらしいカメラです。この本が出た 2010 年 7 月には人気の 2 台なのに、もう彼らの きょうだいが何台も登場している……。デジタルカメラの世界は、ゆるくない。

おすすめされているカメラの 1 台目は、Pentax K-x です。発売されてから今年で 2 年目になりますが、性能は古びていません。なにより、かわいらしい。

いまなら似たような新機種・PENTAX K-r が店頭に並んでいます。ただし、価格と機能とのバランスを比べてみると、K-x のほうが良いかもしれません。購入する前の楽しい悩みが味わえますね。

このサイトの記事: PENTAX K-r – 120 とおりのボディ・カラーと 12 色のレンズたち : 亜細亜ノ蛾

もう 1 台のおすすめは、オリンパスのペン・デジタルの 1 台目である E-P1 です。このカメラは、持ち歩いているだけで楽しくなってくる。自分も E-P1 を首からさげて、地元にある「見知らぬ風景」を撮影してきました。

OLYMPUS PEN E-P1 -軽快な撮影も重厚な作品作りも楽しめるカメラ : 亜細亜ノ蛾

ただ──、E-Px シリーズは高級機です。ぶっちゃけて言うと、Pentax K-x のレンズキットよりもお高い……。おサイフまでは ゆるくない人は、E-PL1 を選びましょう。こちらなら、気軽にお散歩の おともにできますね。

「ほのか」な旅の思い出

ほのかたび」な写真も、この本の特徴です。ペンタックスのデジタル一眼レフカメラの機能である「ほのか」を使って、彩度をおさえた優しいふんいきの写真に仕上げている。

自分も、Pentax K-7 で「ほのか」な写真を撮りました。撮影したのは花だけでしたが、ポートレイトにもピッタリの味わいですね。写真を見ていると、心がなごんでくる。

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そう、「ゆる鉄」の極意の 1 つは、見た人がホッとしてくれるような写真です。「どこかで見たような風景」を生み出すために、写実的な表現を避けている。

写真の真実

「写真とは、実をすものである」なんて \どや/ っとした顔で言う人はプロでも多いけれど──、そもそも「写真」は「photograph」の誤訳に近いですからね。本来は「光画」と呼ぶべきでしょう。

写真 – Wikipedia

写真に写っているモノは、光です。それ以上でもそれ以下でも、それ以外でもない。デジタルのセンサやメモリだろうとフィルムだろうと紙だろうと、撮影者と写真機が生み出したイメージを焼き付ける。

フィルムを使うカメラしかなかった時代でも、現像の時には「覆い焼き」や「焼き込み」をして、人間が意図するような像を造り出そうとしていました。それは真実に近づけるためかもしれないし、逆に遠ざけるためかもしれない。

それなのに、デジタル時代になって「撮って出し」の人が増えたのは、なんとも面白くありません。写真って、そんなに不自由なモノでしたか?

──『ゆる鉄』を読んで、そんなことを考えました。見た目は ゆる~い本ですが、甘く見てるとケガするぜ!